旅する日本酒ペアリング~世界の料理と久保田~グランメゾンシェフの技が凝縮された下町のビストロ料理と日本酒の一体化
2024.04.12

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旅する日本酒ペアリング~世界の料理と久保田~グランメゾンシェフの技が凝縮された下町のビストロ料理と日本酒の一体化

世界の料理と久保田をペアリングするイベント「旅する日本酒ペアリング」。今まで、タイ料理、スペイン料理、北欧料理といった数々の料理と合わせてきました。第7回目となる今回は、下町のビストロ「渡辺料理店」での開催です。ボリューム満点のビストロ料理と日本酒は、一体どんなペアリングとなるのかレポートします。

目次

  1. グランメゾンシェフが下町にビストロをオープン
  2. ガストロノミーレベルの極上ビストロと久保田のペアリング
    1. ミニ シャルキュトリー × 久保田 スパークリング
    2. カワハギ昆布〆 肝和え フォアグラ トリュフ × 久保田 萬寿 無濾過生原酒
    3. フラン ロワール産 ホワイトアスパラ エゾ鮑 生海苔ソース × 久保田 紅寿
    4. オマール海老 サバイヨン グラネチ × 久保田 碧寿
    5. 島根 イノシシロース ロティ バラ肉赤ワイン煮込み × 久保田 萬寿 自社酵母仕込
    6. ババ オ 純米大吟醸 × 久保田 純米大吟醸
  3. 心にいつまでも残るビストロ料理と日本酒の余韻

グランメゾンシェフが下町にビストロをオープン

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銀座レカンの総料理長を務めた渡邉幸司シェフ。彼が選んだ次のステージは、門前仲町という下町。フレンチを気軽に楽しんで欲しいという思いから2022年7月に開いた「渡辺料理店(わたなべりょうりみせ)」は予約困難と言われるほどの人気店。黒板のアラカルトメニューからも自由に選べ、当日でもコースの対応をしてくれるというお客さん目線の営業で、温かい接客と至福の美味しさはまさに地元に愛され地元の皆さんが自慢するビストロです。

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ガストロノミーレベルの極上ビストロと久保田のペアリング

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店内はオープンキッチンでシェフが作業をしている様子が伺え、調理している音や香りが広がりライブ感があり、ワクワクと心が浮き立ちます。グランメゾンシェフの技が光る料理の数々と日本酒がどう組み合わさっていくのか、期待が高まります。

ミニ シャルキュトリー × 久保田 スパークリング

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ビストロに来たら楽しみのひとつがシャルキュトリーなのではないでしょうか。シャルキュトリーとはハムやパテなどの総称で、これらが並んでいる姿を眺めるとうきうきします。コースのスタートは小さいサイズのシャルキュトリーと「久保田 スパークリング」の組み合わせ。

レバーのようなしっかりとした風味を持つパテドカンパーニュは、しっとりとしていて脂のコリッとした食感が所々に残っていてアクセントになっています。シューの上にのっているのは塩気の効いたハム。シューにはチーズをのせて焼いてあり、その香りと塩気、脂が一体となっています。豚の血を使ったブーダンノワールは、全くクセも無く濃厚なうま味が口いっぱいに広がり、サクッとしたパイ生地が全てを受け止めています。そこにほんの少し添えられたりんごのピューレが甘酸っぱく、パイ生地とブーダンノワールを繋げていました。スプーンにのっているのは白レバーのムース。口に入れた瞬間に溶けるほどのふんわりしたムースは、レバーの芳醇な風味が鼻を抜け、イチジクのプチプチとした食感だけが残り、その食感とレバーの香りの余韻を楽しむ一品。

小さいサイズながらも全体にしっかり目の味付けのシャルキュトリーに、炭酸の刺激とちょっと甘めな味わいのスパークリングがよく合っていました。特にチーズの乗ったシュー生地とハムの組み合わせは香りが同調して抜群。塩気と甘さという対極を合わせるペアリングとなっていました。

カワハギ昆布〆 肝和え フォアグラ トリュフ × 久保田 萬寿 無濾過生原酒

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ここ渡辺料理店をオープンする前、豊洲市場で働いたという渡邉さん。仲卸業と加工場、いわゆるひたすら魚をおろす場所で9ヶ月ほど作業をしたといいます。「ずっと料理人としてやって来ましたが、コロナ禍もあって多少の時間も出来、オープンするにあたって様々なところを見たり体験しようと考えていて、とても良い経験になりました」と渡邉さん。上質な鮮魚を扱えるのも市場に近い門前仲町の強みなのかもしれません。豊洲での経験と強みを生かしたメニューとも言えるカワハギの昆布締めは、通常でも人気メニュー。

昆布締めされてねっとりとした食感のカワハギはアミノ酸が増していて、そこにテリーヌフォアグラの濃醇な味わいが重なり、何層にもうま味がやってきます。添えられたブロッコリーはサクッとした食感でアンチョビの風味がしっかりとまとわりつき、トリュフの食感と似ており一体感が。最後に凍らせた肝を擦って散らせた効果が最強で、トロトロと溶けていくにつれ肝の香りを勢いよく放っています。

トリュフ、カワハギの肝、アンチョビ、にんにくといった特徴のある香りに「久保田 萬寿 無濾過生原酒」の華やかでフルーティーな香りが加わることで、芳醇なトリュフの香りと肝の脂の濃厚な余韻が続いていきます。萬寿 無濾過生原酒の滑らかな舌触りが全体を包み込み、脂との相性が抜群で、味も香りも余韻を助長させる組み合わせでした。

フラン ロワール産 ホワイトアスパラ エゾ鮑 生海苔ソース × 久保田 紅寿

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春の訪れを告げるホワイトアスパラガスはフランスのロワール産。空輸で取り寄せているというアスパラガスはとても新鮮で、シャキシャキとした食感と爽やかな香り、甘みとほんのり苦みがあることで奥深い味わい。フランは海苔のとろりとしたソースが全体に絡まっているため、和食の茶碗蒸しのような感覚に。しかし、ベーコンで出汁をとっているそうで、その燻製の香りが後から鼻に抜けることでフレンチなんだと気付かされます。柔らかく歯切れの良い鮑は噛めば噛むほど磯の香りと芳醇な味が湧き出してきて、これが日本酒との相性のポイント。

お酒はドライでキレの良い「久保田 紅寿」。磯の香りで紅寿のアルコール感がマスキングされ優しい米の甘さが際立ち、スマートな印象となるペアリングです。

オマール海老 サバイヨン グラネチ × 久保田 碧寿

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期待を裏切らないぶりんぶりん食感の海老が口の中で弾ける一品。滑らかな舌触りのサバイヨンソースは酸を強めに出していて濃厚なのにスッキリ。このソースが海老に絡まってコクが倍増し、表面が焼かれることでソースの香りも立っています。海老の下にはシャキシャキとしたほうれん草が潜んでいて味の濃さを中和しながらアクセントとなり、シャンピニオンデュクセル(マッシュルームのペースト)が丁度よく香りを足していました。

お酒は「久保田 碧寿」、シェフたっての希望で燗酒です。もともと燗酒に向いている碧寿ですが、本領発揮となった印象。複雑な酸がより強調され、その酸が料理に同調し、料理とお酒の温度が同じなのも相まって何の違和感もなく口の中に入っていきます。お酒の酸と料理の酸、お酒のアミノ酸と料理のアミノ酸が一緒になることで余韻も長く印象深くなっていました。

島根 イノシシロース ロティ バラ肉赤ワイン煮込み × 久保田 萬寿 自社酵母仕込

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次の料理を待っている間に、ニンニクやハーブの香ばしい香りが店内中に広がり食欲を掻き立てられます。この香りの正体はエスカルゴバター。イノシシの肉に添えられて目の前に出されたときにはテンションも上がっています。お肉はバラ肉とロース。煮込まれたバラ肉はホロホロとした食感となり、肉のうま味と脂、赤ワインのコクが重なり合っている重厚な味わい。ロースはしっとり柔らかで何の肉かわからないほど滑らかな舌触りですが、噛んだ後の香りはやはりイノシシと感じせる味わい深さがあり、そこにエスカルゴバターの豊かな香りが加わると重厚感が増します。チベットから輸入したというモリーユ、日本ではアミガサダケと呼ばれている歯切れの良いきのこが添えられており、ワインの効いたソースを吸ってジューシーで絶品。この春の王様と言われているきのことほっくりしたそら豆も加わって更に春の訪れを感じさせてくれます。

お酒は「久保田 萬寿 自社酵母仕込」。華やかでフルーティー、メロンのような甘さとりんごや柑橘のような爽やかな甘さを持つ萬寿 自社酵母仕込はお肉との相性は抜群です。ふくよかで料理と絡まり合いながら口の中で混ざり、最後はお酒のアルコールが料理の脂を切ってくれる役割を果たし、ボリュームのある料理の組み合わせとしては最適でした。

ババ オ 純米大吟醸 × 久保田 純米大吟醸

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通常はババ オ ラムとして提供しているフランスの伝統菓子。これを「久保田 純米大吟醸」でアレンジされた今回のみの特別スイーツです。コルク型に焼かれたババは焼きたてでふわふわ、思わず顔がほころぶほどの優しさ。そこに甘いシロップがかかってしっとりとなっていて、冷たいアイスとのコントラストも楽しませてくれます。全体的に滑らかな舌触りのため、アイスの下に敷かれたサクサクのフレークが味と食感を引き締めていて、飽きずに最後まで食べることができます。

もちろんお酒は、可憐な花やりんごに似た甘くフルーティーな香りを持つ「久保田 純米大吟醸」。ババにかけると更にしっとりとなり、純米大吟醸の香りが引き立ち、ラムよりアルコール度数は低いもののしっかりとアルコールを感じさせてくれる仕上がり。ホイップのクリーム感と純米大吟醸のミルキーな感じもよく合っていて、クリームをつけると一段と美味しくなり満足なコースの最後となりました。

心にいつまでも残るビストロ料理と日本酒の余韻

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フレンチらしい料理でありながら、日本酒が添えられていることに違和感のないコースとなった今回の「旅する日本酒ペアリング」。全体的に香りのあるお酒がメインでしたが、そのフルーティーな香りが食材の脂やソースのコクとバランスよく合っていて、お互いのボリューム感もよく、料理の余韻を感じられる組み合わせとなっていました。
渡邉シェフも久保田のラインナップだけでペアリングするのは初めてでしたが「無濾過生原酒というちょっとアルコール度数の高いものを早めの段階で出して良いか迷いましたがカワハギとの相性が良かったですし、碧寿を燗にするなどチャレンジもし、良い経験でした」と楽しみながらペアリングを考えていたようです。渡邉シェフの料理と日本酒の組み合わせにより、いつまでも心に残る思い出を噛み締められる流れとなっていたように感じ、心地よい余韻に包まれました。

ビストロ料理と日本酒も成功となったイベント。ペアリングの旅、次の国はドイツとか。こちらもまた楽しみですね。

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まゆみ

まゆみ

酒匠、料理研究家。 1日も欠かすことなく酒を呑み続ける驚胃の持ち主。酒と蕎麦と音楽を愛する。著書「うち飲みレシピ」「スバラ式弁当」。