お花見シーズン到来~屋外で燗酒を楽しもう!
桜の季節がやってきました。桜の便りが届くと春の訪れを実感します。そして、桜といえばお花見を楽しみにしている方が多いのではないでしょうか。お花見に欠かせないのはお酒。特に日本酒は、常温~燗酒と幅広く楽しめるためお花見には最適です。しかし「外で燗つけは難しそう」と思っていませんか。今は便利なアイテムが多くあり、手軽に燗がつけられます。美しい桜を見ながら燗酒で乾杯しませんか。
楽しむ
世界には様々なアルコール飲料がありますが、中でも日本酒は幅広い温度帯で楽しめるお酒です。しかし、日本酒を冷酒のまま飲んでいる事が多くありませんか?日本酒を温めるとそれまで気づかなかった香りや味わいが出てきます。そして温かいものは身体にすっと吸収され、飲む量も適度に抑えられるという利点も。季節問わず、燗酒は心と身体を和ませてくれるのです。そこで、美味しい燗のつけ方とひと味違う燗酒を提案します。魅力的な燗酒の世界へ入ってみませんか。
目次
お酒を温める方法として、「湯煎」「レンジ」「直火」があります。直火は温度が急激に上がるため、あまりおすすめ出来ません。レンジ加熱も同じく急激な温度上昇と容器の上下でムラができてしまいます。燗をつけるのに最適なのは湯煎です。何より、同じお酒を同じ温度で口にした時、一番美味しいと感じるのは湯煎で加熱したもの。まずは湯煎での燗つけ方法をマスターしましょう。
用意するものは、徳利、平盃、ちろりまたはガラス製のビーカー。更に温度計があれば目安になるでしょう。
ちろりには様々な材質があります。一番口当たりがまろやかで優しく、そして美味しく変化するのが錫。銅は熱伝導率が早いため短時間で燗つけすることが出来ます。安価で軽いのがアルミ製。ガラス製のちろりはポット型が多いため、理科の実験でよく見かけるビーカーをおすすめします。ガラスは化学変化が起きないため、味を変えずにお酒を温めたい時に最適なのです。
【湯煎の仕方】
①鍋に水または湯を張り火にかけ、沸騰直前で火を止める。湯の温度は80℃が目安。
②ちろり、またはビーカーに日本酒1合を入れ、湯煎する。
③徳利も鍋に入れ、温めておく。平盃もお湯に通し温めておくと良い。
④日本酒が温まり、心地よい香りが立ち上ったら徳利に入れ、1~2分そのまま置く。
⑤徳利から平盃に注いで飲む。
燗酒も料理も、美味しいと感じる温度があります。成分が大きく変化するわけではありませんが、口に含んだ時の感覚が変わるためです。
例えば甘みは体温に近い37℃近辺から温度帯が離れるにつれ甘さを感じにくくなります。アイスクリームなど冷たいものの甘さを強くするのはそのため。塩気は低い温度の方が強く感じ、温度が高くなるにつれ弱く感じます。苦みは30℃あたりから徐々に低くなり、60℃でほとんど感じなくなります。ホットコーヒーを冷めてから飲むと温かい時と比べて苦く感じた経験があるのではないでしょうか。そして、苦みのあるお酒や古酒が燗酒に向くのが納得できます。
酸味に関しては、温度とは関係なく温かくても冷たくても酸っぱく感じます。しかし、酢酸が主成分であるお酢と違い、日本酒の酸は乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸が混ざっていて複雑です。そして、日本酒に含まれるアミノ酸によって感じ方も変わるため、全体のバランスがどうなっているかがポイント。
「久保田 千寿 純米吟醸」の場合はどうでしょう。
20℃:軽快ですっきりとした柑橘のような酸の香りがあります。ピリッとしたアルコールの刺激と辛口のキリッとした感触が印象的。
37℃:丸みのある優しい酸の香り。辛口感は残っていますが、後半に渋みが出てくるのが気になります。
43℃:ミルキーさが出てきて柔らかくふくよかな酸の香り。口当たりは滑らかで、コクをしっかり感じられ最後まで優しい酸に包まれる味わい。
50℃:輪郭のはっきりした酸が特徴的。程よく温かく飲みごたえがあります。
55℃:酸が全面に出てきて、最初から最後まで印象は変わりません。
62℃:温度が高いため口の中が熱くなります。甘さとコクが減り、かなり淡麗な味。
43℃が酸と甘み、苦みのバランスがよく非常に美味しく感じました。また、60℃以上でも淡麗さが増し、好みの方が多いかもしれません。飲んでいく過程で温度が変わり、燗冷まし状態も美味しく、変化を楽しむには熱めも良いでしょう。温度計が無くても、香りを嗅ぎながら、そして味見をしながら燗つけしているうちに徐々にポイントがわかってきます。
美味しく燗つけできるようになったら、ちょい足しにチャレンジしてみましょう。紹介する分量は、基本的に「久保田 千寿 純米吟醸」1合に加える分量です。
*カルダモンとコリアンダー
屠蘇酒のように日本酒に香辛料を加えるのは昔から行われてきました。スパイスには苦みが含まれます。温度を高めにして苦みを弱くし、酸とスパイシーな香りを立たせます。グリーンカルダモン3粒とコリアンダー10粒を加えて60℃まで上げ、スパイスを漉しながら徳利に入れ、1分ほど待って落ち着いたら盃に注ぎます。カルダモンの爽やかさとコリアンダーの甘い香りでエキゾチックな燗酒。カルダモンは消化を助け、殺菌作用もあり、におい消しになるため食後の1杯にしても。
*生姜と山椒
生姜薄切り3枚と山椒5粒を加え、50℃まで温め、同じように徳利に移します。麻婆豆腐などに使う山椒は花椒(ホワジャオ)といって痺れる辛みが主体。日本国産の山椒はミカン科のため柑橘系の香りが特徴なので、ここでは国産山椒を使いましょう。千寿 純米吟醸の淡麗さに生姜の豊かさと山椒の芳醇な香りがプラスされ、後味もすっきり。食中酒にも最適です。
*緑茶
緑茶20gを入れ、60℃まで温め、漉して徳利に注ぎます。小さめのティーバッグがあれば簡単。緑茶の甘さがグッと引き立ち、千寿 純米吟醸の軽快さとすっきりとした酸がキレをよくします。温度が下がっても緑茶の良さがそのままなので、千寿 純米吟醸のキュッとした辛口感が和らぎバランスよく熱燗から燗冷ましまでゆっくり飲めます。普段の食事とも馴染みやすいやすいでしょう。
*玄米茶
玄米茶20gを入れます。玄米茶は温度が高い方が香りが出やすいため、70℃まで上げて漉します。そのままだと熱いので、徳利に入れてから2~3分待つと程よく落ち着き、ちょうど良い温度に。高温のため千寿 純米吟醸の酸がはっきりと出てきますが、玄米の香ばしさとお茶の甘さが加わり、酸をマスキングしてほっと落ち着く燗酒です。
*トマトジュース
千寿 純米吟醸 5:トマトジュース 1の割合で合わせ、温めます。トマトには豊富にアミノ酸が含まれていて、日本酒のアミノ酸ともよく合います。旨みがたっぷりのため、体温と同じくらいだと重たく感じるかもしれません。40~43℃のぬる燗だと程よい酸とコクが、50℃前後だと千寿 純米吟醸の酸がしっかり出てすっきりと飲めます。
*みかんジュース
千寿 純米吟醸 5:みかんジュース 1で合わせ、温めます。柑橘類と日本酒は好相性。特に国産のみかんは苦みが少なく甘みも酸も適度で、千寿 純米吟醸の軽快ですっきりした味わいに色気を添えてくれます。ぬる燗から熱燗までどんな温度帯でも美味しくなります。みかんを強めに感じたい方は千寿 純米吟醸 3:みかんジュース 1でもバランスは崩れません。
*チョコレートと牛乳
牛乳20mlにビターチョコレート20gを合わせて湯煎にかけ、溶けたら日本酒を入れて混ぜながら温めます。カカオ75%のチョコレートを使用しました。あまり砂糖の多くないチョコレートの方がよく合います。牛乳は倍の40mlでも構いません。濃醇さを味わいたいなら37℃前後で、45℃前後は酸と甘さのバランスが良い温度です。カカオの上質で華やかな香りと牛乳のミルキーさに千寿 純米吟醸の軽快な酸が絡み合い、寒い日の定番にしたい燗酒です。
燗酒は難しい!と尻込みしていたら勿体ない。ビーカーで温度を試しながら行えば、実験のようにワクワクしませんか?実際には「美味しい」と思う感覚は人それぞれです。こんなものが燗酒に合うのか?という食材でも、意外に相性が良かったりします。自分が美味しいと思える温度、オリジナル燗酒を楽しみながら探求してみてくださいね。
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まゆみ
酒匠、料理研究家。 1日も欠かすことなく酒を呑み続ける、驚胃の持ち主。郷土料理を大事にし、添加物の無い食卓を心がけている。ブログ「スバラ式生活」は人気。著書に、うち飲みレシピ、スバラ式弁当がある。