酒器を変えると味が変わる? 奥深い日本酒と酒器の世界を渋谷で体験しよう
日本酒「久保田」を醸す朝日酒造は、7月30日(土)に東京・渋谷PARCOにある「未来日本酒店/KUBOTA SAKE BAR」で、「久保田」をさまざまな酒器で飲み比べできるイベントを開催します。
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7月に開催した「久保田」をさまざまな酒器で飲み比べできるイベント「日本酒『久保田』と酒器を楽しむ会」。久保田4種をきき猪口、平盃、ワイングラスで飲み比べました。参加者たちと垣間見た日本酒と酒器の世界の奥深さの一端をレポートします。
目次
朝日酒造の公式Instagramで今年の2月に行ったフォロー&コメントキャンペーン。「あなたが参加したい日本酒イベント」のアイデアを募集し、集まったのはおよそ200個もの“夢企画”のアイデア。
そのなかから当選となった方のアイデアである「酒器によって違う味わいになる飲み比べ」イベントが、東京・渋谷PARCOにある「未来日本酒店/KUBOTA SAKE BAR」で7月30日(土)に実現されました。
イベントでは「久保田 千寿」「久保田 純米大吟醸」「久保田 スパークリング」「久保田 ゆずリキュール」の4種類を、それぞれきき猪口、平盃、ワイングラスで飲み比べ、味わいの違いを体験してもらいました。
酒器は、当選者の方が日頃から愛用している酒器である平盃と、飲食店でよく使われているきき猪口、ワイングラスを使いました。
きき猪口(写真左):白色の磁器製で、日本酒と聞くとイメージされる方も多い定番の酒器。内側の底には、蛇の目と呼ばれる青色の二重の輪が描かれています。
平盃(写真中央):円形で浅く、平たい形状が特徴です。古代からこの形状の酒器はあり、お祝いの席などで使われてきた酒器です。素材は様々ですが、今回は白色の磁器製の平盃を使用。
ワイングラス(写真右):今回はワイングラスの中でも、味や香りを正確に確認できるテイスティンググラスを使用。きき猪口や平盃と異なり、素材特有の味・匂いがないガラス製ものがほとんどです。
かつて、とある飲食店で日本酒の選定に携わっていた経験がある当選者の方。その飲食店で、それまでずっとお猪口で提供していた日本酒を平盃で出してみたところ、それが引き金となりお客様が色々な酒器を使うようになっていったそうです。
今回のイベントの参加者からはどんな感想が飛び出すのでしょうか? 率直な感想をレポートしていきます!
まずは、綺麗ですっきり、淡麗な味わいと、穏やかな香りが特長の「久保田 千寿」から飲み比べました。日常的に楽しめる定番酒です。参加者は、用意された3種の酒器に注がれた千寿を口に運び、じっくりと味わっていきました。
きき猪口で飲んだ千寿は「3つの酒器の中で一番美味しく飲める」「いつもの千寿」と、定番同士の組み合わせはやはり間違いなさそう。一方で「3つの酒器の中で最も辛い」という感想もありました。
平盃で飲むと「千寿が丸くなめらかになる。きき猪口の時の方が辛い」と、きき猪口と比較する方が目立ちました。
「飲み口が大きい分、香りが入ってくる」「日本酒らしい匂いが好きなら平盃で飲むのがおすすめ。得意でないならきき猪口の方がいい」と、平盃で飲んだ日本酒が好きかどうかは、その注いだ日本酒の香りを好きかどうかという点が関わってきそう。「一番美味しい」という人もいて、その人は千寿の香りが好きなのかもしれませんね。
ワイングラスには「味わいも香りもストレートに感じられすぎてしまう。香りを確認したい時にはいい」「いつもは白ワインを飲む時に使っている。ワインに比べると千寿はそこまで香りが強くないという違いを感じられる」と、千寿の穏やかな香りですら強調されるようです。とはいうものの「ワイングラスで飲むには千寿だと香りが足りない」という人もいました。
続いて「久保田 純米大吟醸」を飲み比べてみます。香り、甘味、キレが融合したモダンな純米大吟醸酒で、こちらも「久保田」の中では定番の一本。
きき猪口で飲むと「甘さが引き立つ」「一番美味しい」と、モダンな日本酒を謳っている銘柄でありながら、意外と昔ながらの酒器であるきき猪口が好評のよう。「慣れているから飲みやすい」「美味しい、いつもの感じ」と親しみある酒器は落ち着いて味わえるようです。
平盃で味わってみると「香りが鼻に入ってくる。お燗にして平盃で飲むと美味しいのでは、と思わせられる」という人もいれば、「香りが抜けてしまう」という人も。表面積の広い平盃で飲んだ時に鼻に入ってくる香りをどう受け取るかは個人差がありそうです。
味わいに関しては「甘味ある純米大吟醸を、きちんと甘いと感じさせてくれる」「きき猪口より甘く感じる」というコメントが出たかと思えば、はたまた「甘さが飛んでしまう」というコメントも。
ワイングラスでも様々な意見が飛び交い、「意外と一番ぱっとしない」「一癖ある」「グラスが合わないなって感じは千寿よりはない」「味がきゅっとしまるから、しっかり味わうには一番いい」と、ナシ派、なくはない派、アリ派と多数の派閥がありました。
きき猪口や平盃との大きな違いは香りの面にあったようで「香りが一番分かる。純米大吟醸のフルーティーな香りを楽しみたい人におすすめ」とのこと。華やかな香りの日本酒はワイングラスがいいのかなと思いきや「ワイングラスで飲む時だけ香りが気になった」というコメントもあり、悩ましいところです。
イベントもそろそろ折り返し。このタイミングで味わったのは「久保田 スパークリング」です。きめ細やかな泡立ちと軽やかな爽快感のあるスパークリング日本酒で、日本酒ビギナーにもイベントを楽しんでもらえるように、という考えからラインアップされました。
きき猪口では、飲んでみる前から「そもそもきき猪口や平盃で飲もうと思ったことがない!」「この組み合わせは斬新」といった声があちこちから聞こえてきます。いざ試すと「きき猪口でも香りが立っている」「平盃と比べると泡のパチパチ感がきちんと楽しめる」と、思いのほか相性のよい組み合わせのようです。
同じくスパークリング日本酒を飲む場面では滅多にお声がかからないだろう平盃。いざ感想を聞いてみると「甘味が出て美味しい」「香りが鼻に抜けていき、より飲みやすくなる」と、まさかの大絶賛。
他方で「ある程度量の入る酒器でぐっと飲む方が美味しい」「飲み口が広いと炭酸が抜けてしまうのか、泡のパチパチ感が弱い」という評価もあり、好みがはっきりと分かれる結果となりました。
思いがけない展開を迎えているこのターム。真打とも思えるワイングラスはいかに? と思いながら飲んでみると「一番美味しい」「炭酸の強さが一番しっくりくる」「日本酒らしさと炭酸の発泡感がちょどいい」とやはり間違いないようで一安心です。
とは言うものの「日本酒に取っつきにくくなってしまいそうな、このお酒強いんじゃないかな、って思わせる匂いがする」「匂いに邪魔されちゃって平盃の時に感じた甘味を感じにくい」という感想もあり、日本酒ビギナーと飲む時は一考の必要がありそうです。
最後に飲み比べたのは「久保田 ゆずリキュール」です。ゆず本来の爽やかな香りとほのかな甘味のリキュールで、軽やかな飲み口です。こちらも日本酒ビギナーにも楽しんでもらいたいという想いから選定されました。
きき猪口で味わってみると「すっぱく感じる」という声がありました。「香りが穏やかになるはずのきき猪口でも、ゆずの香りを相当感じる」という声もあり、「久保田 ゆずリキュール」の香りの豊かさが分かります。
平盃で飲むと「今までの3銘柄はどれもワイングラスが美味しかったけど、これは平盃がよかった」という人が。複数の銘柄を複数の酒器で飲み比べる醍醐味はこういった発見にあるのかもしれません。
そしてワイングラスを使ってみると「味わいも香りも一番強い」「香りがいい。味わいも、酸味と甘味を感じられる」「ゆずらしさが出ている」「柑橘系が好きな人に抜群におすすめ」という感想があった一方で、「苦い。平盃の方が甘味を感じやすかった」という感想も見受けられました。ゆず本来の持ち味が強調されたことで、好き嫌いが分かれてしまうのかもしれません。「平盃は飲む前から香りが漂ってきて、爽やかな味わいをネタバレしてくる。ワイングラスはネタバレしてこないから楽しめる」なんていう面白い意見もありました。
また、本日飲んだ銘柄の中では、液体そのものに色がある銘柄です。「使う酒器によって色の見え方が違う!」といった視覚で分かる違いへのコメントもありました。
「久保田 千寿」を辛く、「久保田 純米大吟醸」を甘く、「久保田 ゆずリキュール」をすっぱく感じたことから、銘柄ごとの特長を最も引き立ててくれる酒器はきき猪口なのかもしれません。
よって、その日本酒の持つ本質を味わいたい時にはきき猪口を使うのがよさそうです。この酒器が広く普及しスタンダードになっている理由がよく分かりますね。
飲み口の広さから自分で吸わなくていいので飲みやすい、量とスピードを自分で調節しやすいのでまんべんなく口の中に入ってくる、といった長所を発見できました。玄人向けに思われる酒器ですが、意外と日本酒ビギナーが使うことで平盃を有効活用できるのかもしれない、という可能性を感じられました。
日本酒の甘味やまろやかさを際立たせる効果がありそうですので、日本酒を甘く飲みたい気分の時に使ってみるのがおすすめです。また、注がれた日本酒と鼻との距離が近くなり、日本酒の香りを強く感じることができるので、香りを楽しみたい時にもぴったりです。
飲む時は他の酒器より傾けないといけないことから、口の中に想像より多い量のお酒が入ってくる場合も。日本酒初心者が使う際は注意が必要かも!? 雰囲気を変えることのできる酒器なので、どの酒器で飲んでも味わいや香りに差がないのであれば、お洒落さに特化してワイングラスを選ぶのもおすすめです。
その形状から、日本酒の持つ香りを引き立ててくれるようです。日本酒の香りをしっかり感じたい時に手に取りたいですね。
イベントには、日頃自分が愛用している酒器を持ち込むこともできましたので、その感想も聞いてみました。
錫の平盃を持ってきた人からは、「錫なので日本酒が永遠と冷えていて飲みやすい」と温度変化にまつわる感想が聞かれました。ですが「久保田 スパークリング」を飲んでみると「口径の影響か素材の影響かは分からないけど、泡が全然感じられない。甘い日本酒でしかない(笑)」とのこと。
富山の酒蔵を訪れた際に手に入れたお猪口を持ってきた人からは、「思い出補正か、これで飲むのが一番美味しい」という声もあり、改めて「美味しい」を形作る要素の多さを実感します。
木製のお猪口を持参した人からは、「スパークリングは木の香りと喧嘩せず馴染んでいて美味しいけど、ゆずリキュールは木製の酒器じゃない方がいい」と苦笑い。ボトルを開栓しただけでゆずの香りがふわっと広がる「久保田 ゆずリキュール」が木の香りと衝突してしまうのかもしれません。「日本酒に癖がなければないほど木の酒器は合う。木製の酒器で飲むなら千寿が一番美味しかった」とのことで、ぜひ木製の酒器で千寿を味わってみたいところです。
酒器を変えて日本酒を飲むことは「コーヒーを湯呑みで飲んでも美味しいというのに似ている」という参加者からの声が。定番とは少し違ったやり方で味わってもその美味しさは失われることなく、むしろ新たな魅力を露わにしてくれるポテンシャルを持っていること、そして日本酒のポテンシャルを引き出す酒器の力も同時に目の当たりにしたイベントとなりました。どうしても構えて味わってしまいがちな日本酒ですが、もっと遊び心を持ってもいいのかもしれませんね。
「酒器を3種用意できなくても、飲み口が広がっているものとすぼまっているもの2種類でも楽しめると思う」というアイデアも出ました。それなら簡単に実現できそうで、今後の酒器選びや家飲みの際の参考になりそうです。
そして、イベント当日に参加者と一緒に飲み比べをした当選者の方に感想を聞いてみたところ、自分のお気に入りの酒器である平盃を使った時の参加者の反応が印象的だったそうです。
飲み比べた時の感想は人によって千差万別でしたので、このレポートを手がかりにぜひ自分のベストの酒器を探してみてください。