日本酒をより楽しめる。グラスの種類や選び方
日本酒を飲むときは、どんなグラスを使っていますか?もし、どのグラスで飲んでもお酒の味は変わらないと思っていたとしたら、損をしているかもしれません。適当なグラスに注がず、こだわりを持って選ぶことで日本酒をさらに美味しく楽しめます。ここでは、グラスと日本酒の奥深さをご紹介します。
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日本酒をたしなむときに使われる「おちょこ」は、素材や形が違えば日本酒の味わいも変わる趣深い酒器です。本記事ではおちょこの語源をはじめ、種類やそれぞれの特性についてまとめています。初めての購入を考えている人は、紹介している素材ごとの特性をぜひ参考にしてください。
目次
「おちょこ」とは、日本酒を飲むときに使う小さな器のこと。明確な定義はありませんが、だいたい「一口で飲めるほどの酒が入る大きさのもの」がこう呼ばれています。日本酒をゆっくりとたしなむのにぴったりな酒器です。
おちょこの歴史は未だ明らかになっていないため、なぜこのような呼び方となったのか、いつの時代から使われるようになったのかなどが曖昧です。
「おちょこ」は元々、「ちょく」と呼ばれていたと言います。少しの量を意味する「ちょっと」、もしくは素朴さを表す「直」が関係しているのではないかと考えられていますが、これも定かではありません。現在馴染みのある「猪口」という表記は当て字とされています。
本来の呼び名である「ちょく」の由来について、2つの説が挙げられています。1つは、中国では盃を「チョング」と呼んでいたことが関係しているという説。もう一方は、武家が食していたとされる本膳料理で使われていた器「猪口(ちょく)」からとったとされている説です。しかし、なぜそこからとったかは明らかではないため、あくまで可能性として語られています。
もともと、和え物や酢の物などの料理に使われていましたが、江戸時代中頃から酒宴の場で使われ始めたと言われています。はじめは盃を使い、場がほどよく盛り上がってくるとともにおちょこへ切り替えられていたのだそうです。
もちろん、酒器はおちょこだけではありません。
一般的に知られているのは、幅広いシーンで使われている「盃」、おちょことよく似た「ぐい呑み」、冷酒などを飲むときに見られる「グラス」、儀式的なシーンでよく使われる「枡」など。これらは飲むシーンだけでなく、日本酒の種類や飲み方などにも合わせて使い分けられています。
先ほどもお伝えした通り、おちょこには定義がありません。これが他との大きな違いとも言えるでしょう。
決められている大きさ・形・素材がないからこそ自由度は高く、他と比べてデザインが多様です。形は円・楕円・四角・六角・八角とさまざま。徳利とセットでデザインされることも多く、食卓へ並べたときの見栄えも良いと評されています。
ただ、「ぐい呑み」との違いは何かと、疑問に思う人は多くいるでしょう。結論から言えば、この2つに確かな違いは定められていません。「ぐいっ」という音が合うような飲み方ができる器で、おちょこよりも一回り程度大きいサイズであると一般的には言われています。また、おちょこが徳利や銚子などから注がれるのに対して、酒瓶から直で注がれることが多いのも「ぐい呑み」の特徴とされているようです。
おちょこは陶器や磁器、漆器、ガラス、錫(すず)など、実にさまざまな素材で作られたものがあります。そして、同じ日本酒を注いでも素材が違えば味も変わる……というのがおちょこの趣深いところです。素材選びで迷っているのであれば、自分好みの味わい方に合わせて考えてみましょう。
陶器は粘土を焼いて作られたものです。角のないやわらかな口あたりにし、甘さを引き立ててくれる性質を持っています。ふちに厚みが出るのもこの素材の特徴です。薄いものと比べ、深みのある日本酒との相性が良いと言われています。燗酒の際に使用すると飲み口が優しくなります。
磁器は石を粘土に混ぜて高温で焼き上げたもので、陶器よりもしっかりとした硬さがあり、キメの細かいつるつるとした手触りが特徴です。
陶器と似ていて、日本酒のやわらかな風味を感じられるでしょう。しかし陶器よりも薄く、そして軽く作れるため、ガラスなどと似た性質も持っています。コクのあるタイプからキリリとした辛口タイプの日本酒、どちらも楽しみたい人は磁器が良いかもしれません。
ガラスは素材特有の味・匂いがないため、日本酒の味をダイレクトに感じられます。大吟醸のようなすっきりとした酒には薄めのものを、にごり酒のような濃厚なものには厚みのあるものをおすすめします。
お椀などによく使われている漆を使った木製のおちょこは機能的です。燗酒を注いでも持ち手が熱くなりすぎない上に、冷めづらいという性質を持っています。
そして何よりも魅力的なのは、あのうるわしいデザイン。重厚感のあるなめらかな光沢は美しく、見惚れてしまうでしょう。味わいから見た目までとことんこだわりたい人は、漆器のおちょこも手に入れておくのも良いかもしれません。
錫は機能的で、おちょこなどの酒器に適した金属だと言われています。この素材は水を浄化するともいわれているため、日本酒をまろやかな味わいへと変化させてくれるのだそう。「錫でつけた燗酒は一級上がる」とまで言われていたほど、昔から酒器として活用されている素材です。
最近の珍しい素材がチタン。熱を通しにくい性質を持つため、注がれた酒の温度は変化しづらくなります。低温の酒をゆっくりと、たしなみたい人におすすめです。
スノーピークにはチタンでできた「お猪口 Titanium」という酒器があります。適温を保ちやすいのはもちろん、耐久性にも優れ軽くて持ち運びしやすいことから、お月見やお花見など屋外で使うときにも最適です。同じチタンでできた酒筒もあるので、セットで揃えることもできます。
プロが日本酒を利き酒するときに使われているおちょこを「唎猪口(ききちょこ)」と言います。日本酒の特徴をこまやかに感じられるよう作られた酒器です。こちらではその「唎猪口」についてまとめました。
「唎猪口」と呼ばれるおちょこは、白い磁器で作られています。そして、「蛇の目」と言われる青で描かれた2重の円が特徴です。
サイズはさまざまですが、一般的には32ml(2勺)から180m(1合)まであり、54ml(3勺)、90ml(5勺)あたりが人気のサイズです。
さらに、唎猪口には「呑み唎猪口」と「本唎猪口」があり、鑑評会などでプロが使っているのは「本唎猪口」が基本です。サイズは180ml(1合)のみで、呑み唎猪口より厚さが薄く、蛇の目も手書きで書かれており、青がくっきり出ています。正しく見極めるためにも、プロは形や色、重さ、質感までほぼ同じものを使うようにしています。
唎猪口の目印でもある「蛇の目」は、色の判定をしやすくするために出来上がったデザインです。器のベースカラーである白は酒についた色を見るために、模様となっている青は透明度を見るためにあります。
日本酒はどれだけ透明に見えていても、ほんのり黄に色づいているものです。これを正しく目で確かめるためには、黄の反対色にあたる青によって、白の部分に黄がよりはっきりと見えやすくなるため、このようなカラーリングになっているのだそうです。
ただ、今ではスマイルマークの唎猪口など、ユニークなデザインも登場しています。見て楽しくなるようなデザインの唎猪口を使うのも悪くはありません。
おちょこの選び方一つで、日本酒は今までよりもさらに楽しくなるでしょう。今まで自分のおちょこを持ったことがなかった人、素材などデザインを気にして買ったことがなかった人は、ぜひこだわって選んでみてください。今まで飲んできた日本酒も、新たな表情を覗かせてくれるかもしれません。