
酒蔵の伝統行事の「呑切り(のみきり)」とは|酒造り用語
「呑切り(のみきり)」とは酒蔵の伝統行事のひとつです。毎年夏になると、日本酒を貯蔵しているタンクの呑み口を1本1本開栓し、着色はないか、香りや味の熟成度合の品質検査を行うことです。
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酒造年度の冬から春にかけて仕込んだ日本酒の貯蔵状態を確認することを「呑切り(のみきり)」と呼びます。呑切りは酒蔵の伝統行事のひとつです。新潟県長岡市の朝日酒造で行われた呑切りの様子をレポートします。
酒蔵では、一般的に夏場の6月から8月にかけて呑切りが行われます。日本酒を貯蔵しているタンクには、「呑み口」と呼ばれる栓が付いています。中にある原酒を抜き出して品質を検査するために呑み口を「切る」(開ける)ことから、「呑切り」と言われています。
その年に初めて行う呑切りを「初呑切り(はつのみきり)」と言います。今期全体の酒質の把握、味わいや出荷時期の調整等、品質管理において重要な行事です。朝日酒造では、今年8月26日に初呑切りを行いました。朝日酒造には、純米大吟醸クラスの商品を造る旗艦的存在の朝日蔵と、主力となる松籟蔵の2つの蔵があり、それぞれに杜氏がいます。呑切りでは、朝日蔵の山賀杜氏と松籟蔵の大橋杜氏、二人ですべてのタンクの吞み口を切ります。準備から蔵人が総出であたり、一つ一つのタンクをすべて切り終えるまで数時間を要します。
さらに、片口という容器で原酒の香りを吟味する「切り鼻」も行います。口が広い片口に注がれ、酒の香りが広がります。蔵人だけではなく、社長をはじめ役職者も香りを吟味します。
作業する音、タンクの番号と酒の銘柄を読み上げる声が静かに響く中、片口に入った原酒が丁寧に確認されていきます。これまで入念に育ててきた原酒と対面するこの節目を迎え、蔵の中は喜びと緊張が入り混じる独特な雰囲気に包まれていました。
その後の検査も経て、全タンク内の原酒の熟成が順調に進んでいることが確認されました。商品が飲み手に届くまで、今後も入念な製造工程が続きます。
朝日酒造では、一般の方が原酒にふれることができるイベントを8月30日、31日の2日間開催しました。
「貯蔵原酒100本のきき酒会」と名付けられたイベントでは、タンク100本分から取り出した原酒が朝日酒造エントランスホールにズラリと並び、参加者は好みの銘柄を堪能できるというものです。
普段は味わえない原酒の奥深さを一般の方にも味わっていただくために、2015年に初開催後、コロナ禍の休止を経て昨年5年ぶりに復活開催となりました。今年は2日間で約800名が来場し、酒蔵ならではの伝統行事の一端を体験しました。
会場のエントランスホールでは、真剣な表情できき酒に集中される方や、参加者同士で感想を語り合う方、蔵人と造りの工程や味わいについて話す方、それぞれのスタイルで原酒を体験していました。
「普段飲めない原酒を飲めたことや、タンクごとに同じ銘柄のお酒でも風味が違うことが知れたこと。きき酒会だからこその楽しみ方だなと感じました。」
「造り手の話が聞けて面白かった。」
「きき酒をして、より好みである銘柄を知ることができた。」という声があった一方で、「おつまみや料理と一緒にもう少しゆっくりできたらよかった。」と、呑切りを体感するイベントだけに、想像以上に日本酒としっかり向き合うことになって驚かれた方も。
イベントでは、蔵人から「酒造り唄」の披露もあり会場を盛り上げました。
酒蔵ならではの伝統行事の雰囲気をこういったイベントで体感するのも、日本酒を楽しむ一つのきっかけになるでしょう。