酒蔵に伝わる「酒造り唄」 その種類や代表的な唄を紹介
2021.10.21

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酒蔵に伝わる「酒造り唄」 その種類や代表的な唄を紹介

酒造りが本格化する季節。かつての酒蔵では、酒造りをしていると唄が聞こえてきました。「酒造り唄」と言って、酒造りの作業のリズムを作り、時間を測り、そして数を数えることができる唄です。今では機械化が進み、酒造り唄が歌われることは少なくなりましたが、酒造りの文化としての保存活動が行われています。酒造り唄を聞きながら、日本酒を味わうのも一興ですよ。

目次

  1. 酒造り唄とは
    1. 酒造り唄の種類
    2. 地域によって異なる酒造り唄
  2. 代表的な酒造り唄
    1. 朝日酒造流 もと摺り唄
    2. 杜氏が歌う数番唄と仕込み櫂
  3. 酒造り唄の保存活動
  4. 唄とともに日本酒を味わう

酒造り唄とは

朝日酒造の酒造り

酒造り唄」は、唄を歌いながら酒造りの作業を行う、酒蔵で歌われてきた作業歌の一種です。「酒屋唄」や「杜氏唄」とも呼ばれています。

この酒造り唄、ただ単に歌っているわけではなく、酒造りの作業のリズムを作り、数を数えることができる唄です。また、時計がない時代なので、この唄で時間を測ることもしていました。
かつては、酒造りは「唄に明け、唄に暮れる」と言われていたようです。また、「唄半給金」という言葉があり、唄さえ上手に歌えれば給料の半分はもらえると言われたほど、声を出す事が酒造りをするための必須の道具でもありました。

酒造り唄の種類

酒造り唄は、それぞれの酒造り工程に合わせて歌われるので、いくつもの種類があります。代表的な唄をいくつかご紹介します。

流し唄 蔵に入り酒造り道具を洗い清める際に歌われる唄
桶洗い唄 桶を洗う際に歌われる唄
米洗い唄 お米に水を入れて洗う際に歌われる唄
数番唄 洗い終わったお米に最後に水かけを行う際に、かけ水の回数を数えるために歌われる唄
もと摺り唄 もと(酛)を仕込む際に歌われる唄
仕込み櫂 三段仕込みで櫂を入れる際に歌われる唄
二番櫂 夜なべをしながら櫂突き作業をする際に歌われる唄
三ころ 「二番櫂」の後に、もろみが柔らかくなってくると歌われる唄
切り火 仕込みが終わり、杜氏は仕込桶に清めの切り火をする際に歌われる祝詞

地域によって異なる酒造り唄

酒造り唄は全国の酒蔵で歌われていますが、地域によっては歌詞や歌いまわしなどに違いがあります。その違いは、杜氏の出身によって変わると言われています。

杜氏は全国にいますが、特に有名なのは日本三大杜氏と呼ばれる3つの流派です。岩手県を出身地とする「南部杜氏」、新潟県を出身地とする「越後杜氏」、そして兵庫県を出身地とする「丹波杜氏」です。
丹波杜氏によって歌われる酒造り唄は「丹波流」、越後杜氏によって歌われるのは「越後流」や「関東流」と呼ばれたりします。さらに越後流の中でも、越路地域で歌われる唄はゆったりとした唄、野積(寺泊地域)で歌われる唄は日本海の荒波を思わせるような骨太の唄、と地域特有の特色が出ています。

代表的な酒造り唄

いくつもある酒造り唄の中から、代表的な酒造り唄である「もと摺り唄」の歌詞と動画をご紹介します。

今回は、越後流の中でも、新潟県長岡市にある朝日酒造で歌われている"朝日酒造流"のもと摺り唄を紹介します。歌詞の中にお酒の名前が登場しますが、このお酒の銘柄は酒蔵によって異なり、自分の蔵のお酒の銘柄を入れて歌います。

朝日酒造流 もと摺り唄

トーロリナー アヨー トロリート 今摺るもとは
     酒にナーヨー 造りて 江戸へ出す

江戸ヘナー アヨー 出すとは 昔の事よ
     今はナー アヨー 世が世で 地ではける

地でもナー アヨー はける酒 名のある御銘酒
     酒はナー アヨー 久保田か 朝日山

朝日ナー アヨー 山とは どなたがつけた
     越路ワー アヨー 朝日の 朝日の衆

めでたなー アヨー めでーたーや この屋の館
     せーんしゅナー アヨー らくとは おめでたい

アソラ 中ついて 側ついて シャーンに しょう
     おいらも 真似して シャーンに しょう

杜氏が歌う数番唄と仕込み櫂

杜氏が減り、酒造りの機械化が進んで作業が近代化される中で、酒造り唄を歌うことは少なくなりましたが、もちろん全くなくなった訳ではありません。
朝日酒造の朝日蔵で杜氏を務める山賀基良杜氏は、出品酒を造る際には酒造り唄を歌って、蔵人の士気を上げています。お米を入れた回数を数えるための「数番唄」と、櫂入れに合わせて歌う「仕込み櫂」をご紹介します。

酒造り唄の保存活動

酒造り唄の披露

現場で歌われることが少なくなると唄い手がいなくなり、このままだと酒造り唄が絶滅してしまいます。酒造りの文化として伝承していく必要があると考え、各地域で酒造り唄を保存する活動が行われています。

朝日酒造では「酒造り唄を歌い継ぐ会」を発足し、「朝日流酒造り唄」の伝承と研究を行っています。CD化を企画して発売したり、地域のイベントや学校で公演したり、さらには2002年にドイツ三都市を訪問して、朝日酒造の杜氏らが酒造り唄を披露したりと、国際交流の一翼も担っています。

唄とともに日本酒を味わう

貴重な醸造文化のリズムである酒造り唄。なかなか生で聴ける機会は少ないですが、Youtubeには様々な動画もアップされています。
蔵人たちの身体の中から湧き出る力強い唄声を聴きながら日本酒を味わうと、一層美味しく感じられることでしょう。