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めでたい日には祝い酒を!祭事に欠かせない縁起の良いお酒とは
お正月といった日本の祭事、または結婚式や誕生日、開業といった人生の節目や門出を祝う時に欠かせないのがお酒です。特に日本酒はお祝いの場面で振る舞われることが多いでしょう。その理由や、お酒を贈る時のマナーなど、祝い酒に関することを紹介します。
祝い酒ってどんなお酒?
日本では古くからおめでたい時には祝い酒として、お酒を飲んだり相手へ贈ったりする習慣があります。祝い酒のお酒はそれぞれの状況や習慣、場所によってこれでなければならないという決まりはありませんが、伝統的に日本酒が一番多く飲まれてきました。それは、祭礼や神事などに神様へお供えする御神酒の伝統があるからでしょう。御神酒には霊が宿り、祭礼の後にそのお下がりをいただくことでご利益があり、縁起の良いこととされているからです。
お正月に欠かせないお屠蘇(おとそ)も祝い酒のひとつ。数種類の生薬を配合した屠蘇散(とそさん)を日本酒やみりんに漬け込んだものを家族や一緒にいる方々と飲みます。若い人から順に、厄年の人は最後に、と地域によって作法は違いますが無病息災や長寿を願う意味は同じです。
大きなイベント時の祝い酒といえば鏡開き。もともと運搬用だった菰樽(こもだる)(または菰冠樽〔こもかぶりたる〕など呼び名は様々)が一般的に普及し、披露宴や宴会、スポーツなどの優勝会といったお祝い事で振る舞われるようになりました。鏡開きの時に木槌を振り下ろした音や掛け声は、祝いの席を盛り上げるのに一役買っています。お酒を分け合うことで福も分かち合うという意味もあり、お祝いの席で酒を酌み交わす文化が根付いていきました。
お祝いにはお酒を贈ろう!
人生においておめでたい場面は何度かやってきます。そのお祝いの贈り物にはお酒が最適ですが、縁起物のため形式やマナーには気を配りましょう。
お酒の本数
江戸時代から婚礼や結納には角樽(つのだる)が使用されてきました。もともとは室町時代の柳樽(やなぎだる)と呼ばれていた酒の容器が原型です。加工しやすく漏れにくい柳で作られていましたが、酒造りが発展していくと樽造りも発達し柳から杉へと素材が変化していきました。その後、把手(はしゅ)が見栄えのする角のような形になり、漆が塗られ、現在のような高級感のある角樽と変化していったのです。それにより、瓶詰めの日本酒が主流となった現在は、角樽に見た目が似ていることから2本を縛って贈るのが定番となっています。
しかし、結婚祝いの場合は2本という割り切れる数字は好まれません。3本、5本、または末広がりで縁起が良いとされる8本がおすすめ。避けたいのが4と9。日本語の発音で「死(し)」「苦(く)」を連想させるため、以前はホテルや病院の部屋番号や駐車場の番号もこれらは避けられてきました。門出を祝う時の本数には気をつけましょう。
贈り物に適したお酒
どういったお祝い事で贈るのか、それによって選ぶお酒も変わってきます。「ハレの日にふさわしい華やかなお酒」「普段、自分では手に取らない少し高級感のある銘柄」を意識するとぴったりなお酒を選ぶ事ができるでしょう。
例えば、開店祝いといった場合には、スパークリングの日本酒もぴったり。最近はシャンパンに似たような瓶も多くあり、美しい泡が立ち上るお酒は盛大に祝う時には最適です。
誕生日や記念日には、価格が高めなお酒を。イベント時に飲むお酒は、いつまでも思い出に残ります。そういう時こそ高級感のあるお酒を選びたいもの。
上司やお世話になった方々、年配の方へは、縁起の良い言葉がつけられた銘柄を選びます。「寿」「福」といっためでたい言葉や、「久保田 百寿」「久保田 千寿」「久保田 萬寿」といった数字が入ったものは長寿を願うお祝い事に最適。「鶴」「亀」「富士」なども日本人には縁起の良い印象がありお祝いの気持ちが伝わります。
また、日本酒は新酒、夏酒、秋あがりといった四季を楽しむものであり、端午の節句には菖蒲酒、重陽の節句には菊酒といったそれぞれの節句に欠かせないものでもあります。季節感があり、その時期にしかない貴重な銘柄もお祝いの席を盛り上げます。特に新年の挨拶時におすすめなのが「元旦しぼり」。干支が描かれたラベルも毎年の楽しみになるかもしれません。「立春朝搾り」といった新春のお祝いに相応しいものもあります。
熨斗の種類
昔は、熨斗(のし)といえば熨斗アワビのことで、アワビを薄く切って乾燥させ、神様へのお供え物や贈り物に添えられてきました。これは、魚や肉など “なまぐさもの” の生臭いにおいは魔除けになると言われてきたから。現在では簡略化され印刷された熨斗紙があります。贈答品にはマナーとして熨斗紙をかけましょう。
熨斗には大きく2種類あります。紅白蝶結び(左)は結び目がすぐに解けることから、何度訪れても良いお祝い事に用いられます。誕生日、年間行事、昇進祝いなど。紅白結び切り(右)は一度だけのお祝い事に。結婚式や快気祝いにはこちらの熨斗を使います。
好みや出身地など、大切な相手を思い浮かべて
贈り物を選ぶときに一番重要なのは相手の好みをリサーチすることです。普段嗜んでいる味わいや、よく行くお店などで好みが分かるかもしれません。また、出身地や思い入れのある場所の地酒も喜ばれる可能性が高いでしょう。心を込めて選ぶことで相手にも喜んでもらえるのです。
特に日本酒は、お祝いの席で飲んだりハレの日に贈ったりするのに適した縁起物。祝い酒によって喜びを分かち合い、皆が幸せな気分に浸れるのは素晴らしい文化です。より思い出深い特別な日となることでしょう。
酒匠、料理研究家。 1日も欠かすことなく酒を呑み続ける驚胃の持ち主。酒と蕎麦と音楽を愛する。著書「うち飲みレシピ」「スバラ式弁当」。