日本酒における「キレ」とは?知識を深めて日本酒の幅を広げよう
2023.10.30

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日本酒における「キレ」とは?知識を深めて日本酒の幅を広げよう

飲料のコマーシャルなどでよく耳にする「キレ」という言葉。このキレにはどんなイメージを持っていますか? 「キレがある」「キレがよい」と使われることがよくありますが、実際にキレとはどういうものなのでしょうか。キレのある日本酒とはどんなお酒なのか、味わいのキレについて深掘りしてみましょう。

目次

  1. キレのある味
  2. キレの良いお酒とは
  3. 酒器によるキレの違い
  4. キレに注目してお酒を飲んでみよう

キレのある味

味の表現方法に「キレ」というものがありますが、これは人が感じる味覚や感覚なので明確な基準がありません。

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例えば、コーヒーの場合。味の表現をする指標として、まず苦みと酸味が取り上げられます。豆本来の味もありますが、焙煎を深煎りにすると苦みが多くなり濃度が多くなるとコクが生まれます。また、細挽きにすることでもコクと苦みを感じやすくなります。逆に、浅煎りで粗挽きの場合は、酸が際立ち、香りも少なくなり、軽やかな味わいとなります。しかし味が軽やかなことで酸味が強すぎ、キレは生まれてきません。
中煎り~中深煎りくらいのコクがある焙煎方法で、中細挽き~中挽きくらいの若干苦みを抑えた挽き方にし、高温過ぎない温度で淹れることでキレの良いコーヒーが出来上がります。

ビールにもキレという言葉が使われます。ビールの味を作る成分は、アルコール、糖分、酢酸、有機酸、ポリフェノール、炭酸ガスなど多くの要素があります。特に麦芽を原材料とするビールは麦芽由来の成分が多く残るとコクが生まれ、醗酵由来のエステルやカルボニルといった成分が香りに影響してきます。この要素が少ないと淡麗な味わいとなりますが、淡麗すぎるとキレがよいとはなりません。ある程度、ビール特有の苦みや甘味といった味と炭酸ガスのバランスがビールのキレを左右しています。

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日本酒もコーヒーやビールと同じように、淡麗ですっきりした日本酒だからといってキレが良い訳ではありません。
日本酒の味の目安として、基本的にアルコール度数、日本酒度、酸度、アミノ酸度があります。日本酒度はプラスの数値が大きければ大きいほど辛口となり、逆にマイナスとなれば甘口で甘さの余韻があるといえます。アミノ酸度は数値が高いと濃醇と感じ、甘苦さや雑味といった要素も多くなっていきます。
そして、酸度の数値が高いと酸っぱいイメージがありますが、日本酒の酸の種類は多く、乳酸は濃厚に、コハク酸が多くなると苦みも多くなってくるため味の要素が増えてきます。一般的に、酸度が高いと日本酒度のわりに甘味が抑えられ、しっかりした味わいと言えるでしょう。
また、最近ではリンゴ酸やクエン酸を多く生成する造りも広く行われており、シャープな酸味とさっぱりとした後味が特徴の味わいのお酒もあります。

このように、キレとは「切れ」のことで、口に含んだ味が切れる様子を表しています。そのため、極端に軽快なものは味も平坦なのでキレがあるとはならず、ある程度味の要素があって余韻が短いお酒を指すことがほとんどです。味が後に残らない、その様子もキレといえます。日本酒のキレは、酸度やアミノ酸度といった全体のバランスによって生まれてくるものなのです。

キレの良いお酒とは

久保田のラインナップはどれも程よくアミノ酸を残し、酸はそれほど高くなく、日本酒度もプラス傾向でそれぞれのキレの良さがあります。

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久保田 千寿 」「久保田 百寿」は後半にアルコールの刺激が鼻を抜けていく感覚があり、苦みが味を引き締めているため、キレがあるお酒といえます。
久保田 萬寿」「久保田 千寿 純米吟醸」はバランスの良さでキレを表現しています。綺麗な吟醸香があり、なめらかで程よいコクがありますが、余韻が短いため中盤のふくよかさがスッと消えていくような感覚となり、キレを感じることができるのです。
久保田 碧寿」「久保田 純米大吟醸」は、酸でキレていくタイプ。碧寿はしっかりとしたコクがあり味のボリュームがあるものの、アミノ酸が抑えめなので重くなく、山廃仕込みによる複雑な酸で締まりの良い味に仕上がっています。
純米大吟醸はフルーティーな香りが特徴で、甘さやコクがありますが、飲み込みとともにフッと味が消えるように感じるキレを持ち合わせています。甘味と酸味のバランスの良さもあるため、前述のバランスタイプにも入るといえるでしょう。
また、千寿 純米吟醸は、クリアな中に奥行きのある味わいをもちながら、後味は穏やかな酸で引き締まるキレも感じる、酸でキレていくタイプの特長も持ち合わせています。
複数の要素が重なりながら、キレにつながっているのです。

酒器によるキレの違い

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日本酒を飲むときに重要なのが酒器。基本的には自由に、好きな酒器を選ぶのが良いでしょう。しかし、実際には成分が変わるわけではありませんが、形状が変わると味も変化するのも事実。
空気を多く含むタイプはリンゴやパイナップルといった甘い果実の香りを存分に発揮できます。丸みのある半円形は本来の味を引き出し、筒状はふくよかさを大きく感じ、実際よりも余韻が長くなります。平盃は酸を感じやすく一番味が切れていきます。これら味の変化を体感すれば、余韻の長いお酒も平盃で飲めばキレたように感じ、逆にふくよかでコクのあるタイプが好みなら筒状の酒器にするなど、自分好みの味に変化させることができるでしょう。

一言で「キレ」といっても、日本酒のタイプ、酒器の形状、そして温度によっても変わるため、様々な要因で「キレのある味」になっているのです。

キレに注目してお酒を飲んでみよう

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キレがよいから美味しいというわけではありません。余韻の長いお酒も美味しいものがたくさんあり、それが美しいとされるものもあります。しかし、キレのあるお酒は食事の脂っぽさや生臭さなどマイナス要素を流してくれ、口の中をリセットする効果があり、食中酒として提供されることが多いでしょう。

味の好みは人それぞれですが、キレに注目してお酒を飲むことによって、更に自分好みを見つけることができたり、シチュエーションによって選択することも可能となります。様々なお酒を飲んで、キレについて考えてみてはいかがでしょうか。

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まゆみ

まゆみ

酒匠、料理研究家。 1日も欠かすことなく酒を呑み続ける驚胃の持ち主。酒と蕎麦と音楽を愛する。著書「うち飲みレシピ」「スバラ式弁当」。