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日本酒の純米大吟醸を燗にすると勿体ない?燗酒の新しい楽しみ方
久保田の中でも一番華やかでフルーティーな香りである「久保田 純米大吟醸」。純米大吟醸を燗にするなんて勿体ないと思っていませんか?そんなことはありません。どんな日本酒でも燗にすることは可能なのです。特にフルーティーな香りは温度が低いと閉じてしまうため、少し温めた方が分かりやすくなります。ぬるめから熱々まで温度帯によっても香りや味わいは変わってきます。今回は更に一工夫。スパイスやハーブなどを加えて新しい楽しみ方を提案します。
日本酒の温め方
日本酒を温めるのに最適なのは湯煎です。口当たりも柔らかくなりまろやかで心地よい味わいに。
鍋に80℃程度の湯を張り、ちろりを入れて温めます。素材によっても変わり、錫はまろやかに、銅は熱伝導率が高いためすぐに温まり、アルミは軽くて手軽、ガラス製は本来の味を変えずに温めたい時におすすめです。もし自宅にちろりが無い場合は、徳利で温めても。その時はムラができやすいので何度か揺らして中の温度を均一にしましょう。
「久保田 純米大吟醸」を温めて一工夫
「久保田 純米大吟醸」は44℃前後が一番口当たりが柔らかで優しくフルーティーな香りが広がります。50℃になるとアルコールのツンとした刺激が強すぎますが、60℃前後まで上げると酸が全面に出てキリリと引き締まりました。今回はちろりに純米大吟醸と加える食材を入れ、一緒に温める方法を取ります。
【作り方】
①ちろり、またはガラス製のビーカーに「久保田 純米大吟醸」1合とそれぞれ食材を入れる。
②湯煎で60℃まで温める。
③食材を取って徳利に入れ、平盃で飲む。
温度計が無い場合は、加えた食材の香りが立ち上るのを確認しながら温めてください。徳利で温めた場合でも、食材を取り出して盃に入れて飲みましょう。
スパイス燗
・メースリーフ
メースリーフは、ナツメグの皮を覆っているレース状の仮種皮。純米大吟醸のフルーティーさにメースリーフの特徴であるエキゾチックな香りがプラスされると、まるで異国の飲み物に。
・スターアニス
アニスやフェンネルの持つアネトールと言われる甘い香りが特徴のスターアニス。加える量はほんのひとかけで十分。独特の甘い香りが純米大吟醸の甘い香りに重なって、華やかさが増す組み合わせです。
・グリーンカルダモン
ショウガ科の多年草であるカルダモン。卵形の実に黒褐色の種が入っています。香りの王様とも呼ばれスーッとした清涼感があり、若干の苦みがあります。苦みの少ない純米大吟醸に爽やかさと苦みがプラスされ骨太なお酒に変身します。
・山椒
日本国産の山椒はミカン科サンショウ属の落葉低木。若葉や花も料理に使用しますが、ここでは熟した実を乾燥させた一般的なものを2~3粒入れます。辛みより柑橘系の香りが特徴で、香りの幅が広がり厚みが出て、味わいより香りを楽しむ方法。
・生姜
ウッディーな香りとシャープな辛みのある生姜は料理でもよく使用し、馴染みがあるため抵抗なく受け入れられるでしょう。薄くスライスしたものを1枚使います。生姜は加熱すると一部がショウガオールという成分に変わり体内温度を上げてくれ、燗酒にはぴったり。身体もぽかぽかと温まります。
ハーブ燗
・オレガノ
シソ科の多年草であるオレガノはポピュラーなハーブ。地中海海岸を原産とする多年草でトマトや肉などと相性が抜群。イタリア料理によく使われています。清涼感のある強い香りと胡椒のような刺激があり、お酒にアクセントを加え、純米大吟醸の酸がそれを包み込んでまとめあげています。
・レモングラス
イネ科のハーブで、その名の通りレモンに似た香りが特徴。ハーブティー、お菓子、入浴剤など活用の幅が広いため、見たことはなくても香りを嗅いだことがある方は多いかもしれません。生姜に似たスパイシーさとレモンの持つ爽やかさがあり、純米大吟醸にフレッシュさを加えてくれます。
・バイマックルー
コブミカンの葉でアジア料理に欠かせないハーブ。名前の由来となっているように木になっているミカンはごつごつとした表面で、このミカン自体も香りづけで使われますが、ここでは葉を1~2枚入れて温めます。柑橘系の強い香りが特徴で、味より香りを付ける役割。酸がプラスされたように感じ、引き締まった後味です。
フルーツ燗
・いちご
1個をカットしてちろりに入れて温めます。いちごの甘酸っぱい香りで純米大吟醸のフルーティーさが広がり、フルーツティーのような華やかさ。甘さがプラスされコクも増し、余韻も長くなります。メースリーフを足すと甘さだけでなく香りが複雑になりおすすめ。
・みかん
薄皮を剥いて1片入れます。日本酒は様々な柑橘類と相性がよく、特に生のみかんは苦みが少なく酸も程よいため、純米大吟醸の味わいを壊すことなく甘やかさがプラスされます。少し果汁を搾って温めても美味しくなります。
・りんご
薄切りを使用します。純米大吟醸がもともと持っている香りとリンクするため、違和感がありません。りんごと相性の良いシナモンを足すと、お酒と果物の甘さが引き立ち、苦みが加わることでボリューム感を感じることができます。
豆燗
ナッツや豆などを2~3粒ずつ入れます。日本酒は熟成するとナッティさが出てくるため、ナッツ類は即席で熟成感が出せるアイテム。燗にすることでアミノ酸と糖によるメイラード反応が起き、メープルシロップのような香りが出てきて、そこにナッツが加わることで味に複雑さが出ます。
甘納豆など砂糖をまとった豆は、砂糖が溶けてしっかりとした甘さになり、純米大吟醸の香りは変わらず味の濃醇さが増します。
特におすすめしたいのが、乾燥の黒豆。黒豆特有のコクと香ばしさがあり、穀物感が加わり飲みごたえのある味わいに。
豆燗のよさは、温められて柔らかくなった豆をつまめること。おつまみと燗酒が同時に出来上がる仕組みです。
番外編
辛党には七味をおすすめします。七味に入っている柑橘やゴマなどが温められ楽しい風味。ピリッとした赤唐辛子の辛みがあり、アバンギャルドな魅力にハマりそうです。
甘党には乳酸飲料を。日本酒が持っている酸はリンゴ酸やコハク酸などがありますが、多く占めているのは乳酸です。乳酸飲料の酸味とも相性良く、砂糖も加わっているためボリューム感が出て、甘いもの好きにはたまらない組み合わせ。
ちょい足しで新しい燗酒を
お正月の屠蘇散を入れる屠蘇酒、重陽の節句に菊の花を浮かべる菊花酒、フグのヒレを炙って入れる鰭酒など、日本酒はもともと季節によって何かを加えて飲む方法が多くあります。温度を上げて美味しくなるのも日本酒の特徴。みなさんもスパイスやハーブをプラスし、燗酒ライフを楽しんでみてはいかがでしょう。
酒匠、料理研究家。 1日も欠かすことなく酒を呑み続ける、驚胃の持ち主。郷土料理を大事にし、添加物の無い食卓を心がけている。ブログ「スバラ式生活」は人気。著書に、うち飲みレシピ、スバラ式弁当がある。