酵母とは?日本酒造りにおける役割と種類を紹介
2021.08.05

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酵母とは?日本酒造りにおける役割と種類を紹介

日本酒を造る上で欠かせない「酵母」。酵母の働きによりアルコール発酵が行われ、日本酒の深い味わいと独特な甘い香りを生み出します。今回は「酵母」について解説し、日本酒造りにおける酵母の役割と種類についても紹介します。

目次

  1. 酵母とは
    1. 酵母とは肉眼では見えない小さな微生物
    2. アルコール発酵を行う酵母の働き
    3. 酵母はお酒やパンなどさまざまな食品に使われる
  2. 日本酒造りにおける酵母の役割
    1. 酵母は米の糖分をアルコール発酵に利用する
    2. 酵母はフルーティーな香りを生み出す
  3. 日本酒に使われる酵母の種類と歴史
    1. きょうかい酵母と蔵つき酵母
    2. きょうかい酵母の歴史
    3. きょうかい酵母の主な種類
  4. 酵母を生かしたこだわりの日本酒
  5. 酵母が味わい深い日本酒を生み出す

酵母とは

酵母

酵母とは微生物の一種で、キノコやカビと同じ、真菌類に属します。まずは酵母がどのようなもので、アルコール発酵をするときにどのような役割をするのか解説します。また、さまざまな食品にも活用されている酵母。食品ごとの酵母の種類についても紹介します。

酵母とは肉眼では見えない小さな微生物

清酒などに用いられる酵母は、親細胞から娘細胞が芽を出して分裂することで増殖していく微生物で、大きさは5~10ミクロン(1ミクロンは1mmの1/1000)ほどの球形や楕円形の形状をしています。
酵母には、食材を発酵させる働きがあり、自然界に広く分布。ワインやビールなどの酒類や、パン、しょうゆ、味噌などの発酵食品の多くに用いられています。
食材を発酵させる微生物には酵母以外にもカビや細菌がありますが、発酵における役割がそれぞれ異なります。

アルコール発酵を行う酵母の働き

お酒を造るときに欠かせない存在である酵母。原料に、決められた条件下の元で酵母を加えることで、原料の糖分をアルコールと炭酸ガスに換える仕事をします。この、酵母の働きによるプロセスを「アルコール発酵」と呼ぶのです。
アルコール発酵に必要な酵母や特定の条件は、目的とするお酒によりそれぞれ異なります。例えば、日本酒造りに使われる清酒酵母は低温下で発酵するという特徴があり、17~18%などの高いアルコール度数まで盛んにアルコールを生成します。
この清酒酵母が行うアルコール発酵により、美味しい日本酒ができあがるのです。

酵母はお酒やパンなどさまざまな食品に使われる

酵母にはたくさんの種類があり、お酒以外にも酵母を用いたさまざまな発酵食品が作られています。
酒造用には、日本酒に用いる清酒酵母の他にも、ビールにはビール酵母、ワインにはワイン酵母などがあります。
また、発酵食品と呼ばれるパンや醤油なども、酵母を利用して作られる食品です。
パンには一般的に「イースト」と呼ばれるパン酵母が、醤油には主発酵酵母と後熟酵母の二種類の酵母が用いられ、作られます。

日本酒造りにおける酵母の役割

酵母

酵母には、日本酒造りにおいてアルコール発酵を行う働きと日本酒独特の香りを生むなどの働きがあります。ここではその働きについて解説します。

酵母は米の糖分をアルコール発酵に利用する

一般的に、アルコール発酵は原料の糖分を酵母が利用することにより行われます。
しかし、日本酒の場合は厳密には少し異なります。日本酒の原料となる酒米は、成分のほとんどがでんぷんであり、このままでは酵母によるアルコール発酵に利用できません。そのため、糖分を作り出す作業が必要となるのです。この糖分を作り出すために、麹が必要になります。

日本酒造りでは、「一麹二酛三造り」という言葉があり、麹造り、酛と呼ばれる「酒母(しゅぼ)」、そして、アルコール発酵が行われる「もろみ」が重要になってきます。
麹には、多くの酵素が含まれており、その酵素が酒米のでんぷんやたんぱく質を分解します。酒母は、水に麹を加えた“水麹”に酵母を加え、その後蒸米を加えて造られ、この時、米麹からの麹菌の酵素により蒸米のでんぷんから糖分が造られるのです。
できた酒母に、蒸米や水、米麹を三回に分けて加えていきます。この「もろみ」を造る工程を「仕込み」と呼び、その後、約一か月程度かけてアルコール発酵が行われていきます。

このようにして造られる日本酒は、丁寧な工程に加え、蔵人達の経験や技術力なども味わいに影響すると言われています。

酵母はフルーティーな香りを生み出す

酵母はまた、日本酒独特な香りの発生にも影響しています。アルコール発酵と並行して、酵母は香りの要因となる成分も作り出しています。特に吟醸酒造りで作られる芳香の主成分は「カプロン酸エチル」と「酢酸イソアミル」であり、リンゴやバナナのような香りが特徴です。日本酒を「フルーティーな甘い香り」と表現することがあるのは、このためです。

また、アルコール発酵時には炭酸ガスが発生しますが、多くの日本酒には炭酸が含まれていません。これは、日本酒におけるアルコール発酵が密閉状態で行われないため、発酵中やその後の工程によって炭酸ガスが抜けていくからです。

日本酒に使われる酵母の種類と歴史

酵母開発

日本酒に使われる酵母は「清酒酵母(せいしゅこうぼ)」と呼ばれ、大きく「きょうかい酵母」などの優良酵母を純粋培養されたものと、蔵の環境中に住み着いている「蔵つき酵母」に分けられます。
ここでは、「きょうかい酵母」と「蔵つき酵母」の違いについての解説と、きょうかい酵母が生まれた理由やその歴史、さらに、きょうかい酵母の主な種類を紹介します。

きょうかい酵母と蔵つき酵母

きょうかい酵母

きょうかい酵母」とは、日本醸造協会が頒布している清酒酵母のことで、きょうかい酵母の「きょうかい」は日本醸造協会を表しています。発酵力や特徴的な香りなど、安定した酒造りができる清酒酵母のため、多くの酒蔵で使われています。

一方、「蔵つき酵母」とは、各酒蔵に自生している酵母のことです。歴史ある酒蔵では、蔵つき酵母が酒母やもろみの状態で飛沫し、壁、床、樽など酒蔵のいろいろなところに付着し自生しています。そのため「家つき酵母」とも呼ばれます。
蔵つき酵母は培養する手間だけでなく安定した味を提供することが難しいので、きょうかい酵母をつかった酒造りが主流です。

きょうかい酵母の歴史

本来、日本酒は蔵つき酵母だけを使って造られてきました。しかし、蔵つき酵母での日本酒造りでは、酒の品質を安定させることが難しかったため、明治時代に入り、国は優良な清酒酵母を探して培養することを進め、酒税の確保につなげようとしました。
その後、国立醸造試験所を設立し、全国各地から集められたもろみから清酒酵母の分離に成功し、酒蔵への頒布を始めたのが、きょうかい酵母の始まりです。
きょうかい酵母は種類によって1号、2号と番号により名称化され、現在では、ラインナップの追加や酵母の改良がなされ、多種のきょうかい酵母が酒蔵へ頒布されています。

きょうかい酵母の主な種類

数あるきょうかい酵母の中でも主流なのが6号、7号、9号の酵母です。

6号酵母は、1935年に秋田の新政酒造の「新政」のもろみから分離された清酒酵母で、「新政酵母」とも呼ばれています。発酵力が強く、香りは穏やかで澄んでいるのが特徴です。

7号酵母は、1946年、長野の宮坂醸造の「真澄」のもろみから分離された清酒酵母で、華やかな香りで発酵力も強い酵母です。

9号酵母は、1953年、熊本の酒造研究所「香露」のもろみから分離されました。低温長期発酵の吟醸造りに向いており、吟醸酵母の定番として知られています。

酵母を生かしたこだわりの日本酒

久保田 萬寿 自社酵母仕込

日本酒造りに、重要な役割を果たす酵母。今回、酵母に特にこだわって醸した日本酒として、朝日酒造が2020年5月に発売した「久保田 萬寿 自社酵母仕込」を紹介します。上品な香りと深みのあるまろやかさで、一献の価値ある日本酒です。

「久保田 萬寿  自社酵母仕込」は、34年の歴史を持つ「久保田 萬寿」により一層の磨きをかけて醸した日本酒です。酒米、精米方法、自社酵母の3つにこだわりました。
酒米は、蔵人も生産に携わった新潟県長岡市越路地域産の酒米「五百万石」を使用。自社でプログラムした、米の形状を保ちながら精米をする「原形精米」により、精米歩合40%まで磨き上げました。

酵母は、育種開発の過程で生まれた数千種の酵母から絞り込まれた数種類を候補としました。その中から、より香りを引き出す酵母を選んで、酵母の力を最大限に引き出すために、麹歩合や配合にも配慮して丁寧に仕込みました。

酒米、精米方法、自社酵母による仕込みと、酒造りで大切なすべての工程でこだわり抜くことによって、重層的なエレガントな香りと深みのあるまろやかな味わいを生み出しています。

久保田 萬寿 自社酵母仕込
720ml 10,000円(税込11,000円)
※商品の価格は2021年8月5日現在のものです。

酵母が味わい深い日本酒を生み出す

 (1984)

日本酒造りにおいて、アルコール発酵や日本酒特有の甘い香りを生み出すなど、重要な働きをする酵母。
数ある酵母の中から最適なものを選び、どのように仕込むかによって日本酒の味と香りが変わっていきます。丁寧な酒造りの工程に、蔵人達の経験や技術が加わるからこそ、日本酒は味わい深くなるのです。