香りを引き出す吟醸造りとは?製法やおすすめの吟醸酒も紹介
甘くさわやかな香りが特徴の吟醸酒は、上品なイメージのある日本酒です。吟醸酒は「吟醸造り」という製法で造られていますが、飲んだことがあっても詳しくは知らないという人も多いのではないでしょうか。この記事では、素材や製造方法などを吟味しておいしい日本酒を造り出す「吟醸造り」について詳しくご紹介していきます。
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1986年に誕生した「久保田 萬寿」が、2020年4月、クオリティアップして発売されます。特長である“深みのある味わいと香りの調和”をどのように追求したのか。造り手の杜氏が、進化する美味しさの秘密を語ります。
目次
朝日酒造は、2020年5月に会社創立100周年、そして「久保田」発売35周年を迎えます。それにあたり、2019年9月に、「久保田」のブランドリニューアルを発表しました。1985年に誕生し、それまでになかった「淡麗辛口」という日本酒の新たな方向性を確立した「久保田」。新たなブランドメッセージとして「常に進化する美味しさ」を掲げ、伝統と革新の原点に立ち返ります。
リニューアル発表以降、新商品やリニューアル商品を続々と発売。2019年10月に料飲店先行発売の新商品「久保田 千寿 純米吟醸」、2020年1月にリニューアル商品「久保田 千寿 吟醸生原酒」、2020年2月に新商品「久保田 萬寿 無濾過生原酒」を発売しました。
そして、満を持して、2020年4月に「久保田 萬寿」と「久保田 千寿」のクオリティアップ版が発売となります。常に進化する美味しさを目指して、どのような造りの工夫を凝らしてきたのか。造り手の杜氏が、その秘密を語ります。
※こちらの記事内で紹介した商品の価格は2024年4月19日現在のものです。
1985年5月、「日本酒の失地回復を図り、日本酒を真に文化の香り高い国酒に育て上げる」というミッションのもと、当時の社長の平澤亨と工場長の嶋悌司が生み出したのが「久保田」です。
誕生当時、清酒業界は低価格競争になっており、日本酒離れが危惧されていたため、高品質の日本酒を適切な価格で提供することを使命と考えました。また、都会に生きる日本人の労働の礎が、肉体労働から知的労働へ移り変わっていく姿を見て「淡麗辛口」を志向しました。 仕事が変わり、食卓に並ぶ料理も濃味から薄味へと変わりました。それが酒の味を変えることを、生活者の視点に立ち、見抜いていたのです。
進取の精神で時代の変化を読み取り、挑戦を重ねて生まれた「久保田」は、"淡麗辛口”という日本酒の新たな方向性を確立し、誰もが美味しいと認める日本酒を追求してきました。
ここ最近では、日本酒がブームとなる一方で、お酒離れや日本酒全体の販売数量の減少が続いています。日本酒を今一度飲んでいただくためには、伝統や歴史を重んじながら時代に合わせて進化していく、「伝統と革新の融合」が求められているのです。
「久保田」のブランドリニューアルにあたり、誕生当時の基本理念はそのままに、新たなブランドメッセージ「常に進化する美味しさ」を掲げました。変わりゆく時代とお客様の声に耳を傾け、その声に応えるために常に時代に相応しい挑戦を行い、お客様に納得いただける美味しさを追求・提供し続ける日本酒ブランドを目指しています。
商品は、特別な時を味わうプレミアムラインの「久保田 萬寿」ラインと、いつもの食事をより特別に美味しく味わうデイリーラインの「久保田 千寿」ラインをメインに展開。また、日本酒が初めての方や馴染みのない若年層のお客様にも手にとっていただきやすいように、今後「久保田 純米大吟醸」のパッケージリニューアルを予定しています。さらに、実験的な商品に挑戦していく「KUBOTA LAB(仮称)」ラインも立ち上げます。お客様から評価いただいている美味しさを大切にしながら、新しい美味しさにも挑戦していきます。
「久保田」の最高峰として、多くのお客様に愛されている「久保田 萬寿」。「久保田 萬寿」が誕生したのは、1986年。「久保田 千寿」が発売になった翌年のことです。「久保田 千寿」「久保田 百寿」が多くのお客様からご好評いただいたことで、蔵人たちの魂に火がつき、さらなる奥の手を出そう、挑戦しよう、という気持ちから生まれた、と当時の工場長の嶋悌司は記しています。
精米歩合は、その当時ではトップとなる50~40%の精米歩合を目指し、アルコール添加はせずに純米にする。そして、当時の吟醸造りとしては速醸仕込みが主流だったところを、あえて山廃仕込みを採用。「久保田 萬寿」は、数々の挑戦を経て、蔵人一同、精魂込めて仕上げた一品だったのです。
朝日蔵杜氏の山賀基良
現在、「久保田 萬寿」を造っているのは、朝日酒造に2つある蔵のうちの「朝日蔵」です。1995年に竣工した朝日蔵では、「久保田 萬寿」や「久保田 純米大吟醸」などの純米大吟醸酒を中心に醸造しています。
朝日蔵で杜氏を務めるのは、山賀基良です。1985年、まさに「久保田」が誕生したその年に、朝日酒造に蔵人として入社し、それ以来一貫して酒造りに携わっています。「久保田」とともに酒造りを歩んできた山賀は、2012年より朝日蔵の杜氏となり、全国新酒鑑評会金賞、関東信越国税局酒類鑑評会最優秀賞など、多くの賞も受賞する、ベテランの杜氏です。
「今回の『久保田 萬寿』のクオリティアップで目指したのは、“深みのある味わいと香りの調和”の追求です」と山賀は話します。
ポイントの一つ目は深みのある味わい。深みを引き出すのは麹造りの工夫でした。
「萬寿の麹造りの際に、酵素力価の基準を決めて、米の水の吸わせ方などを最適な状態を目指し、麹の生え方の精度を上げています。精度を高めることで、萬寿ならではの味わいのふくらみ・柔らかさが生まれ、深みを増すことができたと思います」
麹の出来具合を確認する、杜氏の山賀
二つ目は、深みのある味わいと調和する香りです。
「より香りが出る酵母に変更し、香りを引き出しています。また、米の溶け具合も香りに関係しており、米が溶けないと香りが出ず、溶かし過ぎると味が雑になるので、味わいと調和する香りを出すための、適切な米の溶け具合も心がけています」
さらに、その引き出した香りを損なわないための工夫も。
「もろみを搾った後、火入れといって、お酒の加熱殺菌の工程があります。今までは、お酒を60℃まであげた後、3日くらいかけて30℃くらいまで温度を落としていました。それを急冷と言って、十数秒で30℃まで冷やすことが可能になったため、揮発物質である香りがくずれにくくなりました。さらに、貯蔵温度も従来より5℃下げることで、貯蔵期間中に香りがくずれるのを防いでいます」
こうして完成した「久保田 萬寿」は、華やかな香りと重厚な味わいが重なり合い、複雑で深みのある口当たりが広がります。麹から生まれるふくらみのある柔らかさの中に、旨味・甘味・酸味が調和し、心地よい余韻が喉元まで続き、上質な時を彩ります。
朝日酒造の伝統を踏襲しながら、進化していく技術を取り入れて変化を続け、時には大胆に挑戦する。山賀はこう抱負を語ります。
「毎年、『去年よりも良い酒を造ってやろう』と考えるんです。『久保田』には、まだまだ伸びる余地がある。酒は微生物の力なしに造れないので、どんなに仮説を立てて検証しても、日々新たな発見があるんです。『これが最高峰だ』と言い切るのはなかなか難しいけど、着実に近づいている確信はある。だからこそ、さまざまな酒があるなかで『久保田』を選んでいただけるような酒を造りたいですね」
クオリティアップした「久保田 萬寿」