実は相性抜群! 今夜はおむすびと日本酒で乾杯しよう
日本酒のおつまみとしてもおすすめのおむすび。本記事では、ぜひ試してほしいおむすびと日本酒のペアリングを紹介します。今夜は片手におむすび、片手に日本酒で乾杯してみませんか?
特集
2019年9月、朝日酒造は代表銘柄「久保田」のブランドリニューアルを発表し、第1弾として、料飲店先行発売の新商品「久保田 千寿 純米吟醸」を発売しました。「久保田」を作っているのは、「朝日蔵」と「松籟蔵」というふたつの蔵。現場を取り仕切る杜氏の言葉から、朝日酒造に受け継がれてきた醸造哲学と「久保田」のリニューアルに挑む意気込みに迫ります。
2019年9月、朝日酒造は代表銘柄「久保田」のブランドリニューアルを発表しました。1985年に誕生し、それまでになかった「淡麗辛口」という日本酒の新たな方向性を確立した「久保田」。新たなブランドメッセージとして「常に進化する美味しさ」を掲げ、伝統と革新の原点に立ち返ります。
リニューアルの第1弾となる、料飲店先行発売の新商品「久保田 千寿 純米吟醸」は10月に発売されたばかり。朝日酒造では、次なる展開に向けた仕込みが行われている最中です。
今回の舞台となるのは「久保田」が造られているふたつの蔵。現場を取り仕切る杜氏の言葉から、朝日酒造に受け継がれてきた醸造哲学と「久保田」のリニューアルに挑む意気込みに迫ります。
清々しい秋の朝。「久保田」の心臓部ともいえる「朝日蔵」では、すでに蔵人たちが仕込みを始めていました。1995年に竣工した朝日蔵では、「久保田 萬寿」や「久保田 純米大吟醸」などの純米大吟醸酒を中心に醸造しています。
蔵の中へ進むと、適切な水分量を含んだ酒米がじっくりと蒸し上げられ、辺りには米の甘い香りが漂っていました。朝日蔵で杜氏を務める山賀基良さんは、蔵人たちが作業する様子を真剣なまなざしで見つめています。
「品質にブレがないように最新設備を導入していますが、同じ産地の米でも、時期によって吸水の状態や麹の生え方が違うもの。もちろん、日によっても変わります。だから、実際に自分の五感で確かめて微調整する必要があるんです。最終的には、人が品質を決めます」
山賀さんは1985年に朝日酒造に入社し、一貫して酒造りに携わってきました。ちょうど、「久保田」が誕生したのと同時期です。
「もともとは、実家で農家をしながら蔵人として働いていました。そんなとき『久保田』が発売され、少しずつ忙しくなるなかで『手伝ってくれ』と誘いを受けて、正式に入社することになりました。はじめは『久保田』が受け入れられるかどうか不安でしたが、爆発的に売れるようになって、蔵にもエネルギーが満ち溢れていました」
当時はまだ設備も整っておらず、苦労も多かったそう。
山賀さんは「淡麗辛口の味わいを生み出すには、麹を適度に乾かさなければならない。『久保田』を造るためにはどんな環境が最適なのか、どんな設備が必要なのか。それを考え抜いた上で完成したのが、いまの朝日酒造の蔵なんです」と話します。
「久保田」を造るために最適な環境で発揮されるのは、朝日酒造で脈々と受け継がれてきた醸造技術。伝統と革新のなかで培われた経験が、創業から190年近くという長い年月を経て、蔵人たちに息づいています。
「杜氏は、酒造りに関わるすべての工程を見る責任があります。『こういうときはこうしよう』と横で教えながら、『こんな酒を造ろう』と蔵人が一丸となって作業をしていく。たとえるなら、オーケストラの指揮者でしょうか。自分が思い描いている音楽になるように、ひとりひとりに伝えていくんです。
そんなとき、数値化できるところは数値化して、できる限り伝える努力をする。数値化というと無機質なイメージがあるかもしれませんが、その先にある再現性が重要です。数値管理を徹底しながら、手の感触や見た目など、杜氏としての"勘"を伝えていきたいと考えています」(山賀さん)
2011年に竣工した「松籟蔵(しょうらいぐら)」もまた、醸造技術が最大限に発揮できるように設計された蔵。竣工当時は名だたる酒蔵が参考にしたそうです。
ここでは、「久保田 千寿」や「久保田 百寿」をはじめ、地元で愛されている銘柄「朝日山」など、デイリーで飲まれる朝日酒造の日本酒が造られています。
そんな松籟蔵でまさに今造られているのが、10月に発売された「久保田 千寿 純米吟醸」です。ブランドリニューアルの第1弾の商品であり、「久保田」としては初の料飲店先行発売商品として発売されました。
造りを任されているのは、松籟蔵で杜氏を務める大橋良策さん。1989年に朝日酒造に入社して以降、一貫して酒造りに携わっています。
「他蔵の方とお話しすると、『そんなに丁寧に造っているんですか』と驚かれることもあります。でも、私は朝日酒造のことしか知らないから、このやり方しかできない。手間を惜しまず、時間をかけてゆっくりと造る。だから、たとえ本醸造だとしても、大吟醸を仕込むのと同じ感覚で造っているんです」
「久保田 千寿 純米吟醸」で意識したのは、「久保田 千寿」の良さは残しつつ、いかに余韻を残すかという点だったそう。
「『久保田 千寿』を好きでいてくださる方は多いので、まずはその方々を大切にしたいと思っています。ただ、新しい酒を造るからには、新しい選択肢として楽しんでもらえるものにしたかった。なので、『久保田 千寿』のキレやすっきり感を残しながらも、喉の奥で繊細な甘みやふくらみを感じられるような味わい、そして、単体でも楽しめるような存在感を表現することにしました」
大橋さんの言葉どおり、「久保田 千寿 純米吟醸」は「久保田 千寿」ゆずりの清らかなキレを感じるバランスのとれた味わい。料理を邪魔しない食中酒に仕上がっています。
こうして誕生した「久保田 千寿 純米吟醸」を皮切りに、2020年5月16日の会社創立100周年、5月21日の「久保田」発売35周年に向けて、順次「久保田」のリニューアル商品が発表される予定です。
「もしかしたら、驚くようなコンセプトの酒を造るかもしれないので、内心はドキドキしています」と話す大橋さん。
山賀さんも「大変なことは多々ありますが、新しい挑戦は楽しいですよ」と、笑みを浮かべます。
「今回のリニューアルにあたり、あらためて会社全体で『良い酒ってなんだろう』と考えて、言葉にしようとしているんです。とはいえ、ひとことで表現するのは難しいですね。『淡麗辛口』とか『旨味がある』とか......。いろんな言葉が浮かびます。でも、みんなが目標とする酒質は自然と一致する。根底では、思いが共有されているんです」(山賀さん)
「久保田」のブランドリニューアルに意欲を見せるおふたり。しかし、新たな酒を造るとしても、その根底にある醸造哲学は変わらないと言います。
「原料にこだわり、丁寧な造りをする。これは昔から変わりません。そのうえで、これまで『久保田』を好きでいてくださっているお客様、そして、これから『久保田』を飲んでくださる方に新たな選択肢を提示したい。そのために、一肌脱いで頑張りたいと思っています」(大橋さん)
「『酒の品質は、原料の品質を超えられない』という先代杜氏の言葉があります。私も自分の田んぼで米を作っていると、『あぁ、今年はいい出来だな』『ちょっと日照が足りないから、仕込みで調整しなきゃ』など、米の状況を肌で感じることがある。そうやって、原料のことをわかったうえで酒を造ることは大切だと感じています」(山賀さん)
朝日酒造の伝統を踏襲しながら、進化していく技術を取り入れて変化を続け、時には大胆に挑戦する。山賀さんはさらに言葉を続けます。
「毎年、『去年よりも良い酒を造ってやろう』と考えるんです。『久保田』には、まだまだ伸びる余地がある。酒は微生物の力なしに造れないので、どんなに仮説を立てて検証しても、日々新たな発見があるんです。『これが最高峰だ』と言い切るのはなかなか難しいけど、着実に近づいている確信はある。だからこそ、さまざまな酒があるなかで『久保田』を選んでいただけるような酒を造りたいですね」
山賀さんと大橋さんの指揮のもと、これから生み出される日本酒がどのような革新と挑戦の道を歩んでいくのか。新しく生まれ変わる「久保田」は、これからも目が離せない存在となりそうです。
文:大矢幸世
出典:SAKETIMES
「朝日蔵」の杜氏・山賀基良さん