日本酒と共に過ごす四季。今年は季節限定の美味しさを楽しむ一年にしよう!
同じ山でも春夏秋冬で違う風景を見せてくれるように、日本酒もそれぞれの季節でしか楽しめない味というものがあります。本記事では季節ごとの日本酒の特徴やそれに当てはまる銘酒「久保田」、そして四季折々の酒蔵の様子を紹介します。本記事を参考に、今年は日本酒で四季を実感する年にしましょう。
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酒屋や酒蔵の軒先に吊り下がった植物の球体。あれは「杉玉(すぎだま)」と言い、その名の通り、杉の葉で作られています。杉玉には「酒林(さかばやし)」という呼び名もあり、お酒に深く関係するシンボルともいえる存在です。本記事では杉玉の由来や意味、入手方法や作り方などを紹介します。
目次
主に酒蔵や酒屋の軒先などに吊るされる杉玉には、「あることを知らせる」役割があり、造り手の思いが込められています。そんな杉玉の発祥や意味を解説します。
杉玉の発祥は、奈良県桜井市にある日本最古の神社、大神(おおみわ)神社にあると言われています。
こちらは「日本三大酒神神社」にも数えられるお酒の神様を祀った神社で、御神体である三輪山は、神々の住む「神体山」としても有名です。
毎年11月14日には、「醸造安全祈願祭(酒まつり)」が開催され、全国各地から酒造家や醸造元が集い、酒造りの安全を祈祷します。その後、直径約1.5mもある「大杉玉」を新しく取り替えます。三輪山の杉を用いた杉玉には神の力が宿るとされており、醸造安全を祈願する特別な思いが込められていました。
江戸時代中期になると全国各地の酒蔵に、大神神社の杉玉が吊るされる風習が広まったと言われています。
もともと杉玉とは大神神社で作られたものを指していましたが、現在では各地で作られるようになり、そのすべてを言うようになりました。
なお、大神神社で作られた杉玉には「志るしの杉玉」「酒の神様 三輪明神」と焼印で記された札が付いているのが特徴です。
このように醸造安全祈願として始まった杉玉の風習は、時代とともにその役割を変えていきました。それは杉玉が作られるのが、毎年新酒が搾られた頃だったことが大きく関係しています。
杉玉は毎年新しいものに付け替えられますが、作られたばかりの頃は杉の葉本来の緑色をしています。そのことから、酒蔵の軒先に緑の杉玉が吊り下がると、「新酒ができた」という目印になったというわけです。
そして杉の葉が枯れていくにつれて、杉玉の色は緑から茶色へと変化していきます。その変化は、新酒の変化、時間の経過による熟成具合と重なり、茶色くなるほどお酒も熟成が進んだことを現しています。
変わりゆく杉玉の色から旬の日本酒を知るというのは、日本酒好きにとって楽しみのひとつ。これから杉玉を見つけたときは、ぜひその色に注目してみてください。
日本三大蕎麦のひとつである長野県戸隠地方の「戸隠そば」の蕎麦処にも、杉玉を吊り下げる習慣があります。酒蔵の杉玉が新酒の目印であるのに対して、蕎麦屋の杉玉は新蕎麦が出たことを意味します。
別名「そば玉」と呼ばれる蕎麦屋の杉玉は、長い杉の葉を束ねて作る鼓のような形が特徴。中央部分には戸隠特産の根曲り竹を使った竹細工が使われています。
毎年11月、長野県の戸隠神社で開催される蕎麦献納祭では、商売繁盛を祈願するためにそば玉が作られています。戸隠そばを求めて長野に行かれる際は、ぜひ探してみてください。
日本酒と杉の関係は、醸造安全祈願の杉玉だけにとどまりません。例えば、さきほど紹介した大神神社の御神木が、「巳の神杉(みのかみすぎ)」という杉の大木であることも、日本酒と杉の深い繋がりを表していると言えるでしょう。そして、日本酒造りにおけるさまざまな過程で杉を使用する場面があります。
麹蓋(こうじぶた)とは、日本酒の元となる米麹造りを行う箱状の容器です。
底の部分はカンナやノコギリを使わず、杉の木を手で割った板を用いるため、麹蓋作りには職人の高い技術が求められます。また、柾目の杉を使うことで適度な通気性を保ち、良い米麹が完成します。
現在ではステンレスやホーローなどの金属製タンクを使用するのが一般的になりましたが、昔は杉から作られた大きな木桶を酒造りに使用していました。杉はまっすぐに割りやすく加工に適していたことと、杉特有の香りを日本酒に移して、独特な味わいを生み出す目的もあったと言われています。
杉といえば奈良県の吉野杉が有名ですが、この木桶にも吉野杉が多く用いられていました。
お祝いの席や鏡開きで使用される樽酒の樽にも、杉が多く使われます。
杉の他にも樫などの木材が使われることもありますが、いずれにしても木の香りが日本酒に移り、格別の味わいをもたらします。
最近は酒蔵に限らず、居酒屋や旅館、古民家などのインテリアとして杉玉が飾られることも増えてきました。日本酒好きの証として、杉玉を自宅に飾るのも良いのではないでしょうか。なお、杉玉を入手する方法には、以下の3つがあります。
対象は酒造家・醸造元に限定されますが、杉玉発祥の地である大神神社でも入手できます。
毎年11月14日に開催される醸造安全祈願大祭には、多くの酒造家・醸造元が杉玉発祥の神社による由緒ある杉玉を求めて訪れます。
残念ながら一般の人が大神神社の杉玉を貰ったり購入したりすることはできません。次のうちいずれかの方法で、杉玉を入手しましょう。
全国には杉玉を製造販売している専門業者があり、酒蔵が依頼して作ってもらうこともあるようです。
一般向けに通信販売を行っている業者もあり、酒蔵向けの大きいサイズの他、手のひらサイズの四寸玉(直径約12cm)などがあります。特に、小さなサイズはお酒好きの人へのプレゼントとしても人気があります。
杉玉は、自分で作ることも可能です。実際に、酒蔵の中には自分達の手で杉玉を作っているところもあります。
新潟県長岡市にある酒蔵、朝日酒造でも、敷地内の6つの建屋各々に杉玉を吊り下げています。
毎年10月の新酒が搾られた頃、各棟の社員の手によって新しく杉玉を作り替えるのが、社内の風物詩となっています。作ったばかりは20kg強もある杉玉も、1年経つと乾燥して約半分の重さに。色も茶色くなり、お酒が熟成したことの目印となっています。
秋になると全国各地で杉玉を作る体験イベントが開催されるので、ぜひチェックしてみてください。
自力で作るには根気が必要ですが、コツを押さえれば初心者でも作れます。上手に作るコツは、芯をしっかり作ることと、杉の葉をたくさん準備すること。好きなサイズに調整できるので、自分好みの杉玉を作ってください。
杉玉の材料
・杉の葉
・針金
・杉玉を吊り下げる為の紐やチェーンなど
・杉の葉を切るハサミなどの道具
杉の葉が少ないとキレイな球形になりません。作りたいサイズによって杉の葉やワイヤーの量は変わってきますが、なるべく多めに準備しておきましょう。ワイヤーは園芸用などの細いタイプではなく、ある程度太さがあるものが適しています。
針金で、作りたい杉玉の直径よりも3~4cm小さい輪を3個作ります。できあがった3個の針金を球形に組み合わせて、杉玉の芯を作ります。
このときに忘れてはいけないのが、吊り下げ用の紐やチェーンの取り付けです。杉玉の上になる部分を決めて結びつけてください。できあがった杉玉はかなり重たくなるので、しっかり結んでおきましょう。
次にワイヤーに四方八方から枝を挿し、土台を作っていきます。枝と枝を絡ませるようにすると、しっかりした土台が作れます。この時点で、大きくはみ出してしまった枝を先に切っておきましょう。
その後は、芯に隙間なく杉の葉を挿していきます。手を痛めてしまうことがあるので、軍手などをつけて作業を進めていきましょう。
隙間なく杉の葉を挿し、全体の形を丸く整えながら枝を切っていきます。
手元ばかりを見て作業していると形がいびつになりやすいため、遠くから見たときに綺麗な球になっているか確認して調整してください。
杉玉は単なる飾りではなく、新酒の熟成具合を知らせる重要な役割を持っています。季節の移ろいとともに変わりゆく杉玉の色に合わせて旬の日本酒を選ぶことで、より日本酒を楽しめます。