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寒い日には酒粕を!栄養の宝庫 “酒粕” で心も身体もポカポカ「満たされ酒粕レシピ」
お酒の仕込みが本格的に始まると酒粕も店頭に並び始めます。身体に良いと言われている酒粕ですが、実際にはあまり使う機会が少ないのではないでしょうか。栄養満点の酒粕は毎日少しずつでも取り入れたいものです。簡単酒粕レシピで寒い冬を乗り切りましょう!
酒粕ができるまで
日本酒の製造工程で生まれる酒粕。醪を液体と固体に分けるために行われる上槽という作業で酒粕は生まれ、その作業方法は様々あります。
袋吊り
雫搾りとも呼ばれる方法で、小さなタンクの上に木の棒を渡し、醪を詰めた袋を隙間をなくすようにかけ、重力で落ちてくるお酒を取る方法。手間も時間もかかり一般的ではありませんが、鑑評会出品用などに使用されることが多く、酒蔵の技術を集約したお酒と言えるでしょう。
槽搾り
槽(ふね)を用いた搾り方は3種類あり、最も使用されているのは佐瀬式。槽は硬質の木材で作られていましたが、時代を経てコンクリートやホーローへと変化し、現在は鉄製の内側にステンレスの板を貼り付けたものが主流です。その槽の中に醪を詰めた酒袋を重ね、最初は醪自身の重さで搾り、途中からゆっくりと上から圧力をかけていきます。無理な圧力がかからないのがメリットです。
八重垣式も似たような方法で搾りますが、槽の中で搾る佐瀬式に比べ八重垣式は槽の外で搾るため空気に触れやすいのが特徴。そのため、あえて酸化を促し個性的に仕上げる場合に用います。
撥ね木式は、圧力も人力で行う方法。槽の中に酒袋を重ねて蓋をし、上に大きな木(撥ね木)を置き、テコの原理を用いて圧力を加えていくのが撥ね木式または天秤搾りと呼ばれています。人力で調整しながら搾ることが可能ですが、時間と人数と手間がかかるため撥ね木式を使っている酒蔵はかなり少なくなっています。
遠心分離
遠心分離機の中に醪を入れ、毎分約2000回もの回転をさせることにより酒と酒粕に分離されます。搾る時に布を使用しないため、布由来の臭いが付かないことと密閉状態のため香気成分が残るといったメリットがあります。しかし、高価なため導入のハードルも高く一度に搾れる量も少ないことから、まだ課題は多いといえるでしょう。
自動圧搾機
現在、多くの蔵で取り入れられているのがヤブタ式と言われている自動圧搾機です。アコーディオンのような圧搾機の中に醪を入れ、両側から圧力をかけて搾る方法。搾り時間が短縮でき、自動化できるため蔵人の負担も減り、より多くの酒が分離できるというメリットがあります。以前は圧力がかかりすぎるなどデメリットも目立ちましたが、圧搾の程度を調整したり自動圧搾機をそのまま冷蔵設備に入れて搾るなど蔵の工夫も加わり、フレッシュで綺麗なお酒を搾ることが可能となっています。
他にも氷結取りといった特殊な方法がありますが、これらの搾り方で酒粕の形状も味も変わってきます。
一般的に見る板状のものは自動圧搾機で搾られたもの。圧搾機から粕剥がしの作業を経て、そのままの形で販売されています。バラ粕は板状にならなかった場合もありますが、槽搾りのしっとりとしたバラ状のものは溶けやすいため料理にも使いやすく風味も抜群。他にも、純米酒や吟醸酒など特定名称の違いでも香りが違います。
踏込粕(ふみこみかす)と呼ばれるものは、酒粕をタンクに入れ、名前の通り踏み込んで空気を出しながら圧縮し熟成させたもので、粕漬け用や奈良漬けなどに適しています。大吟醸酒粕や槽搾り粕など、記載してあるものは使用方法によって選ぶとよいでしょう。
酒粕の栄養素と効能
江戸時代の人たちは酒粕のことを手で握るお酒ということで『手握り酒』と呼んでいました。そして、江戸時代の料理書には『酒骨料理』という名が出てきます。魚をおろすと骨が残るように酒を搾った後に残るもの、酒の骨、すなわち酒粕の料理というわけです。このように昔から酒粕は好んで食されており、栄養があるからこそ重宝されていたのではないでしょうか。現在では炭水化物やビタミンだけでなく非常に重要な栄養素が含まれていると解明されています。
コレステロールの低下レジスタントプロテイン
酒粕に含まれるたんぱく質は 100gあたり14~15gと豊富ですが、最近注目されているのがレジスタントプロテインの存在です。胃で消化されにくいたんぱく質で小腸まで届き、油や脂質を包み込んで体外へ排出してくれる働きをします。
気分の改善が期待されるSAM(S-アデノシルメチオニン)
S-アデノシルメチオニンは体内で生成される物質のひとつで、気分改善作用や抗肝障害作用、抗関節炎作用の効果があると言われ研究が進んでいます。
ガンの抑制効果α-ヒドロオキシ酸
α-ヒドロオキシ酸(α-ハイドロオキシ酸)はガンの増殖を抑制すると考えられており、酒粕にはリンパ球の一種でがん細胞だけを殺すナチュラルキラー(NK)細胞を活性化させる働きがあると言われています。ナチュラルキラー(NK)細胞は、体内に異物が入っていないかチェックする役割とがん細胞を消滅させる効果があり、がんになりにくい身体作りの期待が持てます。
他にも、高い抗酸化力と冷え性を解消するペプチド、エネルギー代謝を促進するビタミンB群、シミの原因となるメラニンを生成するメラノサイトの働きを抑制するコウジ酸など、美肌に欠かせない成分も豊富に含まれています。身体に良く肌の改善にもなり健康促進という優秀な食材、酒粕を積極的に取り入れましょう。
身体が喜ぶ 満たされ酒粕レシピ
【材料】
・酒粕 : 適量
【作り方】
① 板状はそのまま一口大にカット、バラはラップで平らにし、トースターで5分ほど焼き色が付くまで焼く。
熱々でも冷めても美味しい焼き酒粕。ふわっとアルコールと発酵由来の香りが鼻を抜け、江戸の人たちが握り酒と重宝したのがわかります。
お酒は「久保田 碧寿」を合わせましょう。碧寿の複雑な乳酸としっかりしたコクがそのままの酒粕を受け止めてくれます。
何もつけずにそのままでも十分ですが、オリーブオイルと塩を少々、砂糖醤油を一滴、きな粉と砂糖をふりかけるなど、アレンジも無限大。好みのちょい足しを探してみてください。
【材料】2人分
・鶏もも肉 : 1/2枚
・玉ねぎ : 1/2個
・舞茸 : 1/2パック
・赤唐辛子 : 1/2本
・にんにく : 1かけ
・酒粕 : 30g
・鶏がらスープ : 1.5カップ
・塩 : 適量
・ペンネ : 160g
・オリーブオイル : 適量
【作り方】
① 赤唐辛子は種を取り、鶏肉は一口大に、舞茸は小分けにしてにんにくと玉ねぎはスライスし、オリーブオイルで炒める。
② ①に鶏がらスープと酒粕を加え、煮る。塩でしっかりと味をつける。
③ パスタを表記通りに茹で、②のソースに加えて絡める。
牛乳も生クリームも加えることなく酒粕だけでとろーり濃厚でクリーミーなソースに仕上がります。にんにくと赤唐辛子で酒粕のクセも消え旨みだけが残り、それをパスタが吸い取ってくれる優れもの。
合わせるお酒は「久保田 千寿 純米吟醸」のぬる燗がおすすめです。ふんわりと柔らかい香りの千寿 純米吟醸と凝縮された酒粕の香りが絡み合い、千寿 純米吟醸のキレの良さでついついもう一口、と進んでしまう美味しさ。
【材料】2人分
・豆腐 : 1丁
・湯 : 1L~(適量)
・酒粕 : 大さじ1~2
・昆布 : 5cm
(ポン酢たれ)
・柚子のしぼり汁 : 大さじ2
・醤油 : 大さじ2
(ピリ辛たれ)
・コチュジャン : 大さじ1
・醤油: 小さじ2
・柚子のしぼり汁 : 小さじ1
・ごま油 : 小さじ1/2
【作り方】
① 鍋に湯と昆布を入れて酒粕を溶き、火にかける。
② たれの材料はそれぞれよく混ぜ合わせる。
③ ①に豆腐を入れて温め、②のたれをつけて食べる。
塩だけでも十分ですが、お好みでポン酢やピリ辛のタレも合わせてどうぞ。酒粕の香りとふわっと温まった豆腐の相性の良さを実感できます。
お酒は「久保田 千寿」を。熱々の口の中をクールダウンする冷酒、同じように身体を温める燗酒、どちらもよく合います。香りが控えめでドライな千寿は繊細な豆腐の味を邪魔せず後味を良くしてくれます。
摂取量を守って美味しく酒粕を取り入れましょう
どんな食材でも身体に良いからといって大量に摂取してはいけません。特に酒粕は『手握り酒』と言われたほどアルコールが残っています。未成年やアルコールに弱い方がそのまま口に含むことはおすすめしません。しっかりと火を通しアルコールを飛ばして食べましょう。何より、美味しく少しずつ毎日食卓に取り入れることが美容にも健康にも繋がります。この冬は酒粕レシピを取り入れて病気に負けない身体にしていきましょう。
酒匠、料理研究家。 1日も欠かすことなく酒を呑み続ける驚胃の持ち主。酒と蕎麦と音楽を愛する。著書「うち飲みレシピ」「スバラ式弁当」。