新潟県の米や日本酒はなぜ美味しい? その理由を探る
米と日本酒と言えばまず思い浮かぶのが新潟県。そもそもどうして新潟米は美味しいのでしょうか。そして新潟米は、新潟県の日本酒の美味しさにどのように関わっているのでしょうか。新潟県の米と日本酒、両方のエキスパートに教えてもらいました。
知る
酒米は、日本酒をおいしく造るために品種改良を重ねられた特別な米です。この記事では、日本酒の味わいを左右するとされる酒米の特徴について、一般的な飯米と比べながらわかりやすく解説します。さらに、代表的な酒米の品種と特徴も紹介します。
目次
日本酒を造るときに使われる白米を、総じて「酒米(さかまい)」と言います。その中でも特に日本酒造りに適したものを、「酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)」と言います。この酒造好適米を指して「酒米」と呼ばれることもあります。ここでは、酒米=酒造好適米として、ご紹介していきます。
私達が普段口にする飯米と酒米にはどんな違いがあり、なぜ酒米は日本酒造りに適すのか、まずは酒米の特徴を解説しながら、一般的な飯米との違いを確認していきましょう。
酒米の中心にあるのが、「心白(しんぱく)」と呼ばれる白色不透明の部分です。心白は吸水性が良く、やわらかく麹菌の菌糸が入りやすい隙間があります。酒米は飯米に比べて心白が特に大きいため、米麹が育ちやすくアルコール発酵がバランスよく進みやすいといった性質があるのです。
酒米には、たんぱく質や脂質が飯米に比べて非常に少ないという特徴があります。たんぱく質や脂質はお米の旨味やツヤを出す役目があるため、飯米には多く含まれています。しかしお酒を造る上では、たんぱく質と脂質は、旨味にもなり雑味にもなります。
たんぱく質は分解されると旨味の元となるアミノ酸になるのですが、多すぎると日本酒を造る上では麹菌や酵母の生育が早まり、バランスが崩れて雑味の原因にもなってしまいます。また、たんぱく質の含有率が高いと、吸水性が落ちてしまいます。さらに、脂質は日本酒の香りの成分が立ち上がるのを妨げる原因になることもあります。
そのためたんぱく質や脂質の少ない酒米の方が、日本酒造りに向いているのです。
日本酒は、精米歩合によって味わいが変化します。「精米歩合」とは、玄米を外側から削り残った部分の割合を%で示したものです。例えば、精米歩合が60%だと、玄米を外側から40%削り取った状態のことです。米の外側を精米によって磨き落とすほど、たんぱく質や脂質がそぎ落とされて雑味の少ない酒質になります。
飯米の精米歩合は平均で90%ほどであるのに対し、酒造りの原料となる米の多くは、精米歩合が75%以下の白米が使用されており、どれだけ精米できるかも美味しい日本酒造りには重要になってきます。
そのため、酒米には飯米に比べると粒が大きいことや、精米の過程に起きる摩擦や熱に強く割れにくい強度が求められるのです。
飯米にも「コシヒカリ」や「あきたこまち」などの銘柄があるように、酒米の種類もさまざまです。農林水産省には現在、100を超える種類の酒米が登録されているそうです。どんな酒米を使うかがお酒の味を大きく左右しますので、ここでは代表的な酒米の中からぜひ覚えておきたい品種を紹介します。
まず紹介するのは、「酒米の王様」とも評されている「山田錦」です。1923年に、兵庫県で「山田穂」と「短稈渡船」の交配により誕生しました。山田錦は全国で最も多く生産されている酒米で、半分以上が兵庫県で造られています。最も有名な酒米と言っても、過言ではありません。
山田錦の特徴は、粒が大きいこととその約8割が心白であるという点です。そのため、たんぱく質の含有量が少なく、山田錦で造られるお酒は雑味が出にくいとされています。また、吸水性が高くもろみにしやすいため、質の高い米麹を造りやすい酒米です。
また、高精米にも向いているので、大吟醸酒などにも用いられることが多く、奥行きのある芳醇な味わいとなるのも特徴です。
続いては、「五百万石」です。五百万石は日本を代表する米どころ、新潟で1938年に誕生した酒米です。山田錦と並ぶ知名度を誇る品種になります。現在も北陸地方を中心に、栽培されています。
新潟の気候風土に合うよう開発された早生品種の酒米であり、新潟県が米の生産量五百万石を突破したことがきっかけで名付けられました。
五百万石は、理想的な蒸米である外硬内軟に仕上がりやすいので、米麹を造りやすくなります。また、米質がやや硬く溶けにくいため、淡麗辛口な酒質になりやすい傾向があります。一方で、大粒で心白が大きいため、50%以上の高精白が難しい酒米とも言われています。
日本酒で代表的な淡麗辛口という酒質は五百万石が生まれたからこそできたのであり、五百万石で造られた日本酒はすっきりとして、あまりクセがなく飲みやすいものが多いです。
「美山錦」は、主に長野県で造られている酒米で、「たかね錦」の突然変異によって1978年に長野県で誕生しました。酒米としては、比較的新しい品種ですが、現在は山田錦、五百万石に次ぐ生産量となります。
北アルプスの山々にかかる雪のような美しさを持つ心白から、「美山」と名づけられたそうです。
この品種は寒さに強く、寒冷地や山間部での栽培に適しているため、長野県以外にも東北地方を中心に広いエリアで栽培されています。美山錦の特徴としては、醸造時にも溶けにくいという点が挙げられます。そのため、五百万石に似たなめらかですっきりとした味わいとなり、食中酒にもぴったりの日本酒になる傾向にあります。
酒米としては日本最古の品種とされているのが、江戸時代に生まれた「雄町」。10月下旬に成熟する晩生品種であり、山田錦や五百万石をはじめ現存する酒米の半数以上が、雄町の遺伝子を受け継いでいるとされています。
稲の背が150~160cm程度と高く栽培の難しさがあることから生産量が減ってしまい、一時は絶滅の危機に瀕していましたが、近年酒造メーカーの努力により、栽培が復活しています。山田錦や五百万石に酒米の王座を奪われたものの、芳醇でコクのある味わいは今もなお人気高い酒米です。
雄町を原料にして造られたお酒は、米の旨味・甘味も感じさせる、立体的な味わいを楽しめます。
吟醸王国と呼ばれる山形県を代表する酒米が、「出羽燦々」です。1985年に山形県で、「華吹雪」という山田錦をルーツとした品種と美山錦をかけ合わせて生まれた酒米です。美山錦がルーツですので、寒さに強い品種と言えます。
山形県による酒米らしく印象深い名にしようという想いから、この名前がつけられたそうです。
出羽燦々の特徴は、やわらかく吸水性が良いため醪に溶けやすいという点です。また、大粒で心拍発現率が高く、たんぱく質も少なめなので、雑味が少ない幅のある味わいのお酒が仕上がります。キレのある味わいとサッパリした飲み口が特徴ですので、吟醸酒造りに適した酒米と言えるでしょう。
「越淡麗」は、山田錦と五百万石をかけ合わせて育成された品種です。1989年に、新潟県農事試験場(現在の新潟県農業総合研究所作物研究センター)において16年という長い歳月をかけて研究開発した酒米で、現在は主に大吟醸酒の製造に用いられています。
越淡麗は雄町のように草丈が長く、台風の時などは倒伏しやすく育てにくさのある酒米ですが、一粒のサイズが大きくてたんぱく質含有量が少ない品種です。また精米特性にも優れており、精米時の砕米が少ないため40%以上の精米にも耐えうる品種でもあります。
山田錦と五百万石の長所を備えた酒米ですが、越淡麗を原料として造られた日本酒は山田錦とも五百万石とも違う味わいで、やわらかくてふくらみがあると評価されています。
酒米は普段私達が口にする飯米とは違って、日本酒をおいしく造るために品種改良を重ねた特別なお米です。
この記事で紹介した6種類の酒米の他にも、日本各地でその土地の気候や風土に合わせたさまざまな品種の酒米が栽培されています。酒米の種類や特徴に詳しくなればどんな味や風味の日本酒であるかをおおよそ予想でき、好みの日本酒を選びやすくなるはずです。
日本酒を選ぶときには、ぜひラベルに表示された酒米の種類にも注目してみてください。