酒米(さかまい)とは?飯米との違いや代表的な品種を紹介
酒米は、日本酒をおいしく造るために品種改良を重ねられた特別な米です。この記事では、日本酒の味わいを左右するとされる酒米の特徴について、一般的な飯米と比べながらわかりやすく解説します。さらに、代表的な酒米の品種と特徴も紹介します。
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米と日本酒と言えばまず思い浮かぶのが新潟県。そもそもどうして新潟米は美味しいのでしょうか。そして新潟米は、新潟県の日本酒の美味しさにどのように関わっているのでしょうか。新潟県の米と日本酒、両方のエキスパートに教えてもらいました。
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春耕の季節がやってきました。米どころでは、ゴールデンウィークは田植えにかかりきりという農家の方も多いのではないでしょうか。
そんな米どころの一つに数えられる新潟県は、栽培面積、収穫量ともに全国第1位(2021年)。
そして米と並ぶ新潟県自慢の特産品が、日本酒です。新潟県は、日本酒の生産量が全国3位(2020年)、酒蔵の数では全国1位となっており、米どころであると同時に、酒どころでもあるのが分かります。
そんな新潟米は収穫量が多いだけではなく、味が美味しいことでも知られています。
なぜ新潟米は美味しいのでしょうか。そして新潟米は新潟県の日本酒の美味しさにどのように関わっているのでしょうか。
そこで今回は新潟米と新潟県の日本酒、両者のエキスパートの元を訪ねました。新潟米を100%使用した日本酒「久保田」などを造る朝日酒造 製造部部長の安澤(あんざわ)義彦さんです。
朝日酒造は「酒造りは、米づくりから」という考えのもと、1990年に農地所有適格法人「あさひ農研」を設立しています。蔵人も米づくりに携わり、日本酒にとって理想的な米を追求しています。
安澤さんは、朝日酒造の製造部のトップとして酒造り全体を指揮する一方、あさひ農研の代表取締役として酒造りに使用する米の品質向上にも尽力しています。
「突然ですが、5月から10月にかけての日照時間は、東京都と新潟県のどちらが長いかご存じでしょうか。
その答えは、意外にも新潟県なのです。雪国のイメージに反しているので、びっくりする人も多いのではないでしょうか。
稲は太陽の光をたくさん浴びて生長するため、田植えから稲刈りまでの時期である5月から10月に日照時間が長いというのは、新潟県が米づくりに適している一つの要因です。
また、もう一つの大事な要素である気温に焦点をあてると、6月から8月の気温は高く、日較差(昼夜温度差)は比較的大きいという米づくりに適した面もある一方で、近年は大型台風によるフェーン現象(乾燥高温の環境)に見舞われるなど、気象条件にやや悩まされているというのも実態です」(朝日酒造製造部部長/あさひ農研代表取締役・安澤さん)
「新潟県の米の美味しさには、その土地の土質や気候を把握した上での、適切な品種選択や栽培技術の向上が大いに関わっています。
稲作の要件は『5:3:1:1』という数値で例えられることがあります。
はじめの『5』は、品種選択の重要性を示しています。どんなに優れた特性があっても、その土地の気象などの品種固有の条件に合わないものは生育が不調になり、その特性を充分に引き出すことができません。これらは、朝日酒造が新潟米100%にこだわる理由の一つと言えます。
2つ目の『3』は、栽培技術を示しています。毎年1回しか栽培ができない、しかも毎年稲作環境が変化しますので、長年の経験から得られた『カン・コツ』が判断の拠り所です。土壌状態、施肥設計、水管理などの条件をもとに、さまざまな場面で判断しなければなりません。品種ごとに栽培暦といって、稲作の作業標準的なものはありますが、やはり現場で現物を確認することで現実を知るという3現主義が大切になります。近年は葉色を測定することで稲の生育状況を把握する技術などが開発されて、『カン・コツ』を補うことができています。
現場に足しげく通い、五感を研ぎ澄ませて観察し、測定してその数値をもって次の一手を打つ。稲作はもっぱらこの繰り返しです。こうしたところにも、新潟県の県民性が垣間見えてきます。
3つ目の『1』は土質、そして最後の『1』は気象です。
むろん土質やその年の気象は、食味等の品質に影響を与えますが、人為的にはなす術がないのも事実。ですから、適切な品種を選択し、さらに品質を高めるための栽培技術を磨くことが大変重要であると認識しています。
新潟県で生まれた優れた品種、そしてたゆまぬ栽培技術開発のおかげで、新潟県は米どころと呼ばれて久しいですね」(安澤さん)
「米どころ新潟県を代表する米として、きっとどなたも思い浮かべるのが言わずと知れたブランド米『コシヒカリ』でしょう。新潟県における品種別作付面積において、コシヒカリは約70%もの割合を占めています。また、コシヒカリとは異なる美味しさを持つ、新潟県の新たなブランド米『新之助』の登場も印象的でしたね。
そして米どころ新潟県では、『コシヒカリ』や『新之助』のような普段主食として食べられている飯米のほかに、酒造りに使われる米もつくられています。一般に、酒造りに使う米を酒米といいますが、その中でも酒造りに適した特徴を持つ米は『酒造好適米』と呼ばれます。
飯米に『コシヒカリ』や『新之助』などの銘柄があるように、酒造好適米の種類もさまざまです。新潟県でもっとも多く生産されている酒造好適米は、『五百万石』という品種です。酒造好適米の優良品種として、『山田錦』に次いで全国で2番目に多く作付けされています。ちなみに、2006年より普及が開始された『越淡麗』は、山田錦を母親に、五百万石を父親に交配された新潟県独自の酒造好適米です」(安澤さん)
「酒造好適米は飯米とどんな違いがあるかと言いますと、米の中心に心白(しんぱく)と呼ばれる隙間の多い構造があって麹菌が繁殖しやすい、日本酒の雑味の要素となるたんぱく質や脂質が少ない、酒米は飯米より多く外側を削り落とす必要がありますが、酒米の玄米は粒が大きいから多く削っても白米が大きい、粘り気が少なくほぐれやすい、といった違いがあります。これらの特徴から、酒造好適米は酒造りに適しているのです。
そんな特徴を持つ酒造好適米の中でも、五百万石は酒米の世界の東の横綱と呼ばれているだけあり、心白が大きいので米麹を造りやすいんです。やや硬めの米質で溶け過ぎず、淡麗な新潟県の日本酒には欠かせない繊細な味わいをもたらしてくれます。すっきりとしたキレのある新潟県の日本酒は、五百万石の開発があったからこそ誕生したとも言われています。米どころである新潟県が、同時に酒どころである理由がよく分かっていただけるのではないでしょうか」(安澤さん)
「米どころ新潟県の日本酒であっても、酒蔵によって原料の調達方法はさまざまです。そのような現状の中、忘れてはならないよい酒米の条件として、『顔が見える』『安全安心』な酒米であるというのも、日本酒を美味しく楽しむには大切な条件であると思います。
例えば、米を多く収穫しようと肥料を多く与える。すると、たんぱく質の割合が増えてしまう。ですが、新潟県の日本酒らしい淡麗で清らかな味わいにするには、たんぱく質の含有量を抑えたい、というのが酒蔵としての理想です」(安澤さん)
「そこで私たち朝日酒造やあさひ農研では、たんぱく質の少ないよい酒米を収穫できるよう、地域のJAや米農家さんへお願いしています。お願いするだけではなく、よい酒米をつくるため、栽培や酒造りにおける知見と最新情報を発信・共有していますし、地域のJAや米農家さんには毎年、米のできばえをフィードバックするようにしています。それを励みに米農家さんはよい酒米をつくってくださいますし、私たちもその米を原料にいい日本酒を造る。お互いに切磋琢磨しています。
そういった地域のJAや米農家さんとの信頼関係によって栽培される酒米は、まさしく『顔が見える』酒米で、『安全安心』な酒米だと胸を張って言えます。また、蔵人自らが田んぼに入り米づくりに関わっていることは、まさに農醸一貫の実践で、お客様に美味しさを伝える一つの要素であると考えています。これらの活動の根っこには、『酒の品質は米の品質を超えられない』という先輩杜氏の言葉があるからです」(安澤さん)
「米のできばえは年によって異なります。今年の米はどんな特性を持っているのか、蔵人が米づくりに関わることで、いち早く知ることができます。
そこで把握したことを活かし、適切に日本酒を仕込む。ひとつひとつの工程を着実に進め、次の工程にバトンを渡していくことがよい日本酒を造ることにつながっていて、それはなにも酒蔵の中で行われる工程に限った話ではなく、米づくりの段階から始まっているんです。
私たちの考える酒造りというのは、恐らく多くの人が想像するよりも、ずっと手前でスタートを切っています。新潟県の日本酒の美味しさの理由は酒蔵の中だけでなく田んぼにもあると思っていますし、そう言える米づくり、酒造りをこれからも続けていきたいですね。将来、酒米に関するセンター機能を発揮できるようになればと。そのためにも、日々研鑽ですね」(安澤さん)