「山廃仕込み」とは?製法や特長をわかりやすく解説
2022.10.14

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「山廃仕込み」とは?製法や特長をわかりやすく解説

「山廃(やまはい)仕込み」とは、酒造りにおける「酒母(しゅぼ)造り」の製法のひとつ。天然の乳酸菌の力を使った複雑な味わいが持ち味です。本記事では、その製法や味わいの特長の他、山廃仕込みを語る上で欠かせない生酛(きもと)や速醸酛(そくじょうもと)についても解説します。なお最後には、おすすめの山廃仕込みのお酒も紹介します。

目次

  1. 酒母造りの内容や種類について
    1. 酒造りにおける「酒母造り」とは
    2. 酒母造りの製法➀生酛
    3. 酒母造りの製法②速醸酛
    4. 「山廃仕込み」は生酛から派生した製法
  2. 「山廃仕込み」の製法と特長
    1. 「山廃仕込み」の製法
    2. 「山廃仕込み」の味わいの特長
  3. 「山廃仕込み」のおすすめ商品と飲み方
    1. 久保田 碧寿
    2. 久保田 雪峰
    3. 朝日山 充光 純米大吟醸
  4. 「山廃仕込み」を知って日本酒をより堪能しよう

酒母造りの内容や種類について

培養中の酒母

酒母とは、日本酒を醸造するための土台となる液体で、優良な酵母を培養しています。またの名を「酛(もと)」と呼び、日本酒造りにおける「一麹、二酛、三造り」という言葉の中に挙げられるほど、酒母造りは大切な工程です。ここではその造りの内容や、山廃仕込みを含む3つの製法について解説を進めていきます。

酒造りにおける「酒母造り」とは

酒母造りの解説を進める前に、まずは酒造りの工程を簡単にご紹介します。

日本酒は米、米麹、水を原料とし、それらをアルコール発酵させることで造られています。
製造工程は主に「麹造り」「酒母(酛)造り」「もろみ造り」の3つに分けられますが、その中で酒母造りは酒造りの土台となる、スターター的役割を担っています。

酒母造りに必要な主な原料は、米麹、蒸米、水。これらを酒母室のタンクで混ぜ合わせて造ります。
ここで優良な清酒酵母を入れて大量に育てなければ、「もろみ造り」で順調に発酵を進められません。
そのため蔵人は毎日徹底的に衛生管理や品温管理をしながら状態を確認し、酒母を完成へと導くのです。

酒母造りの製法➀生酛

酒母造りの製法には、大きく分けて生酛(きもと)系と速醸(そくじょう)系の2種類があります。
それぞれ酵母を大量に増殖させて酒母を造ることは共通していますが、大きな違いは乳酸の取り入れ方です。

日本酒造りは開放状態で行われるため、酵母の働きを阻害する雑菌がタンクに入り込む可能性があります。そこで「酸に強い」という清酒酵母の性質を利用し、タンク内を酸性に保って雑菌を抑え、酵母の増殖を促すわけです。

生酛は酒蔵の空気中に漂う天然の乳酸菌を取り込み、乳酸を増やして酵母を育てる伝統的な製法です。酒母ができるまでには時間がかかり、蒸し米を櫂棒(かいぼう)と呼ばれる道具ですりつぶす「山卸(やまおろし)」という重労働も伴います。山卸は、極寒の早朝から深夜にかけて大勢の蔵人達が2~3時間おきに行い、細かい作業も含めると丸一日かかる場合もあるそうです。

これらの作業を経て造られた酒母は「生酛系酒母」と呼ばれ、酒質が強く熟成向きであること、風味や香りの仕上がりが良いなどの特徴があります。ただし、乳酸が生成されるまでのタンクは無防備な状態。うまくいかなければ腐造させてしまうリスクも孕んでいます。

酒母造りの製法②速醸酛

速醸酛とは、酒母を仕込む際に乳酸を投入する製法です。1910年に、国立醸造試験所によって開発されました。生酛の半分の期間(約2週間)で酒母が完成する上、蔵人の労力が軽減されるなどのメリットもあります。

先述の通り、伝統的な生酛造りは雑菌によって腐造する場合があり、せっかく仕込んだお酒が売り物にならないことすらありました。腐造は、酒蔵にとって経営を左右する一大事。そんな時代に誕生した速醸酛は、酒造りにおいて革命をもたらした製法と言っても過言ではありません。速醸酛の登場により、酒造技術や蔵人達の作業効率は飛躍的に向上しました。

現在ではほとんどの酒蔵が速醸酛を採用しています。もちろん理想の日本酒を追求する中で、昔ながらの生酛にこだわり続ける魅力もありますが、短期間で安定した酒母造りを可能にする速醸酛を取り入れることにも多くのメリットがあると言えます。

「山廃仕込み」は生酛から派生した製法

ここまで生酛、速醸酛の製法について解説を進めてきましたが、いよいよ本題である山廃仕込みに話題を移しましょう。

実は山廃仕込みは生酛から派生した製法で、「生酛系酒母」に分類されます。生酛と異なるのは、蔵人が手作業で米をすりつぶす「山卸」をしないという一点のみ。山卸を廃止(省略)した仕込み方法という意味で、正式名称は「山卸廃止酛仕込み(やまおろしはいしもとじこみ)」と言い、通称「山廃仕込み」や「山廃」と呼ばれるようになりました。

しかしながら、ここで「山卸をしないと米がつぶれず、乳酸が増えないのではないか」という疑問が生じることでしょう。
この課題を解決するのは「米麹」の力です。
山廃仕込みでは、米麹の持つ酵素の力で米を溶かして山卸と同様のはたらきを促し、酒母を造ります。

なお山廃仕込みが誕生したのは速醸酛が生まれた前年、1909年のことでした。
国立醸造研究所が行った実験によって、山卸を行った酒母と行わなかった酒母に成分の違いがないと証明されたのです。こうした背景をもとに、山廃仕込みを採用する酒蔵が広がっていきました。

「山廃仕込み」の製法と特長

杜氏

ここからは、さらに山廃仕込みの製法について解説を進めるとともに、その味わいの特長も紹介していきます。

「山廃仕込み」の製法

山廃造りは乳酸菌によって作られた乳酸が生成されやすい環境を蔵人達が手作業で作っているため、完成させるまでには約1ヵ月がかかります。これは速醸酛で酒母を造る場合の倍以上の期間。重労働の山卸をしないとはいえ、山廃仕込みも生酛造りと同じく、天然の乳酸菌を活かして手間ひまをかけているのです。

「山廃仕込み」の味わいの特長

速醸酛が主流となった今でも伝統的な製法にこだわる酒蔵があるのは、やはりそれだけ山廃仕込みに魅力があるということに他なりません。

山廃仕込みや生酛では、蔵付きの乳酸菌を取り込んで乳酸発酵でじっくり時間をかけて育てられます。そうして完成した酒母は酒蔵ごとに独特な味わいを生み出し、濃醇で飲みごたえのある日本酒に仕上がるのです。

日本酒の味わいには多くの要素が関係するため、すべてに共通する特長ではありませんが、山廃仕込みは酸味や苦味がきいた骨太な味わい、生酛は複雑な味の奥行きがありつつ透明感を感じる味わいとなる傾向があります。
また山廃仕込みは燗映えするともいわれており、しっかりした味わいなので温めても存在感が損なわれません。

「山廃仕込み」のおすすめ商品と飲み方

酒蔵がこだわって造り上げる山廃仕込みのお酒。実際にその味わいや香りを自らの五感で感じてみてください。

※こちらの記事内で紹介した商品の価格は2022年10月14日現在のものです。

久保田 碧寿

久保田 碧寿

山廃仕込みによって乳酸菌の力を最大限引き出した純米大吟醸酒です。どっしりとした旨味とともに、爽やかでシャープな酸味も味わえる、実に山廃仕込みらしいお酒と言えるでしょう。飲みごたえがありつつ、キレのある軽いのど越しも特長で、グリルや炙りなどの香ばしい料理との相性は抜群です。特にぬる燗がおすすめです。

久保田 碧寿
1,800ml    5,498円(税込6,047円)
720ml    2,457円(税込2,702円)

下記の記事では、懐深さが魅力の「久保田 碧寿」を紹介しています。
山廃仕込みらしいどっしりとした深い味わいと、久保田らしいすっきりしたキレをあわせもつ「久保田 碧寿」の魅力や特徴的な製法、おすすめの味わい方を紹介します。

久保田 雪峰

久保田 雪峰

「アウトドアで楽しむ日本酒」をコンセプトに、朝日酒造がスノーピークと共同開発して誕生した山廃仕込みの純米大吟醸です。
山廃仕込みがもたらす絶妙に調和した懐の深い味わいが特長で、個性的で野趣あふれるアウトドア料理にもバランスよくマッチします。冷やすと軽快な旨味や酸味が際立ち、温めると甘味や酸味のまろやかさを存分に堪能できます。

久保田 雪峰
500ml    3,100円(税込3,410円)

朝日山 充光 純米大吟醸

朝日山 充光 純米大吟醸

上品に香りが広がる、奥深い味わいの純米大吟醸酒。後味はすっきりとした引きの良さを感じらます。
アルコール分17度のわりに軽やかで、飲み続けても飽きがこず、舌なじみの良い辛口に仕上がっています。
冷酒から熱燗まで幅広い温度で楽しめますが、特にぬる燗がおすすめ。山廃仕込みならではの、奥深い味わいを堪能してください。

朝日山 充光 純米大吟醸
1,800ml    5,498円(税込6,047円)
720ml    2,747円(税込3,021円)

「山廃仕込み」を知って日本酒をより堪能しよう

酒母の味が濃く現れる山廃仕込みのお酒は、深みのあるしっかりとした味わいを堪能できます。奥深い山廃仕込みの魅力を、ぜひ一度試してください。