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「酒米・精米・酵母」のバランスから生まれた“究極の萬寿”─「久保田 萬寿 自社酵母仕込」が目指した、おいしさのその先
2020.05.19

特集

「酒米・精米・酵母」のバランスから生まれた“究極の萬寿”─「久保田 萬寿 自社酵母仕込」が目指した、おいしさのその先

2020年5月、朝日酒造は会社創立100周年、そして「久保田」発売35周年を迎えます。その記念すべきタイミングで、「久保田」を象徴する新たな一本が誕生しました。それが新商品「久保田 萬寿 自社酵母仕込」です。「酒米」と「精米」、そして「酵母」の3要素に注目し、「久保田 萬寿 自社酵母仕込」の魅力に迫ります。

目次

  1. 誕生35周年の節目に「久保田」ブランドをリニューアル
  2. 米のことを知らなければ、最高の酒は造れない
  3. 常識を覆した「精米歩合40%」
  4. 自社酵母を使って実現した、味と香りの調和
  5. さらなるおいしさの追求へ

さかのぼること2019年9月、朝日酒造では「久保田」のブランドリニューアルを発表し、「久保田 千寿」と「久保田 萬寿」のふたつを軸に、さらなる品質向上とおいしさを追い求めてきました。

「久保田 萬寿 自社酵母仕込」は、これまでの"萬寿らしさ"を踏襲しながらも、より香り高く、より深みのある味わいを目指した"究極の萬寿"。その真価は「酒米」と「精米」、そして「酵母」にあるといいます。

今回は、この3要素に注目し、新商品「久保田 萬寿 自社酵母仕込」の魅力に迫ります。

誕生35周年の節目に「久保田」ブランドをリニューアル

1985年5月、創業時の屋号「久保田屋」にちなんだ名を冠して生まれた「久保田」は、「淡麗辛口」という日本酒の新たな方向性を世の中に提示しました。

「久保田 千寿」「久保田 百寿」の2銘柄からはじまった朝日酒造の挑戦。1986年10月には「久保田 萬寿」を発売し、世代や性別を超えて広く支持されることとなりました。

そして、「久保田」の誕生から35年の時を経て、朝日酒造は新たにブランドメッセージとして「常に進化するおいしさ」を掲げ、伝統と革新の原点に立ち返るべく、「久保田」のブランドリニューアルを発表。

特別な時を味わうプレミアムライン「久保田 萬寿」、いつもの食事をより特別に美味しく味わうデイリーライン「久保田 千寿」のふたつを軸に、ブランドの再構築を進めています。

「久保田 千寿 純米吟醸」

2019年10月には、その第1弾として「久保田 千寿 純米吟醸」を料飲店先行で発売。続く2020年2月には「久保田 萬寿 無濾過生原酒」を発売し、「千寿」と「萬寿」それぞれの新たな味わいを提案しています。

「久保田 萬寿 無濾過生原酒」

同年4月には基幹商品でもある「久保田 萬寿」「久保田 千寿」のクオリティアップを図り、「常に進化するおいしさ」を体現しました。

そして来たる5月19日、「久保田 萬寿」シリーズに新たな一本が誕生します。それが「久保田 萬寿 自社酵母仕込」です。

「久保田 萬寿 自社酵母仕込」は、「深みのある味わいと香りの調和」という"萬寿らしさ"を踏襲しながらも、さらにその先を行くおいしさを目指した一本。"究極の萬寿"とも言えるものです。

米のことを知らなければ、最高の酒は造れない

「久保田 萬寿 自社酵母仕込」には、これまで朝日酒造が培ってきた知恵と技術の粋が結集されています。

「久保田 萬寿 自社酵母仕込」

まずは「酒米」。朝日酒造では「酒造りは、米づくりから」という考えのもと、1990年に農地所有適格法人「あさひ農研」を設立しました。蔵人も米づくりに携わりながら、理想の酒米を追求しています。

「かつて、日本酒の世界では『米であればなんでもいい』という時代がありました。生産者にとっては、量を優先したほうが稼ぎにもなった。けれども、1990年当時、杜氏には『酒の品質は米の品質を超えられない』という信条がありました。当時の酒米は理想とはほど遠かったため、生産者や農協と連携して、契約栽培を始めたのです」

そう話すのは、製造部部長の安澤(あんざわ)義彦さん。製造部のトップとして酒造り全体を指揮しながら、あさひ農研の代表取締役社長としても酒米の品質向上に尽力しています。

製造部部長 安澤義彦さん

朝日酒造が理想とする酒米は「二白一粒(にはくいちりゅう)」。たんぱく質の割合が低く、「心白」と呼ばれる白く不透明な部分が中心にあり、大きく粒ぞろいな米のことです。

「『久保田』の淡麗で清らかな味わいには、極限までたんぱく質を抑えることが重要です。けれども、米を多く収穫しようと肥料をたくさんやると、たんぱく質の割合が増えてしまう。

ですから私たちが実験したデータに基づき、肥料をやりすぎず、いい酒米が収穫できるよう、生産者の方に理解をいただきながら米づくりを行なってきました。毎年みなさんに通信簿のような形で、米のでき具合をお伝えしているのですが、お互いに切磋琢磨して、安定的にいい米をつくってくださっています」(安澤さん)

安澤さんは、蔵人が米づくりに関わることの意義について、いち早く米の特性を知ることができる点にあると語ります。

「米のでき具合は毎年異なります。今年の米はどんな特性があるのか。それを私たち蔵人がいち早く知ることで、適切な仕込みに活かし、経験のなかで改善することができる。ひとつひとつの工程を着実に進め、バトンを渡しながら、よりよい酒を造ることにつながっているんです」

「久保田 萬寿 自社酵母仕込」に使われている酒米は、あさひ農研で育てた新潟県長岡市越路地域産の「五百万石」です。

越後平野の南端に位置し、魚沼地区に隣接した越路地域は、蛍が見られるほどの清らかな自然環境。減肥栽培で育てられた五百万石は、気候変動の激しかった2019年においても、これまで培ってきた技術と経験により安定した品質を保つことができました。そしてなにより、朝日酒造が採用した精米技術「原形精米」によって、その魅力を最大限に引き出すことができたのです。

常識を覆した「精米歩合40%」

五百万石はもともと心白が大きく、精米歩合を50%以下にすることは難しいと言われている酒米。白く不透明な心白には目に見えないほどの隙間があり、割れたりヒビが入ったりすると、酒造りに悪影響を及ぼしてしまいます。

そんななか、「久保田 萬寿 自社酵母仕込」に使われるのは、麹米も掛米も精米歩合40%の五百万石。まさにこれまでの常識を覆した一本です。

「はじめに社内から精米歩合40%の五百万石を依頼されたときは、かなりリスクが高いと感じてしまったのが正直なところです」と振り返るのは、品質保証部 生産管理課の広川豊和さん。朝日酒造にある精米棟で、酒米の入荷から精米計画の管理などを担当しています。

品質保証部 生産管理課 広川豊和さん

ただ、広川さんにはある考えがありました。参考にしたのは、朝日酒造が完全受注生産で醸す最高級の銘柄「継(つぐ)」。五百万石と山田錦を掛け合わせて開発された新潟県の酒米「越淡麗」を35%まで精米して造られたお酒で、その精米技術が応用できるかもしれないと考えたのです。

「『継』では、米の形を保ったまま精米する『原形精米』を採用しています。雑味のもととなるたんぱく質は米の表層に多いので、原形精米は従来の精米方法よりもたんぱく質の除去効率がいいんです。

精米機の中で回す高硬度のロール状砥石の回転数を極限までゆっくり回すことで、砕米を防ぐこともできました。『久保田 萬寿 自社酵母仕込』でも同様にプログラムを組めば、おそらく可能なんじゃないか、と」(広川さん)

精米歩合40%の五百万石

一度精米機を動かせば、後戻りはできない一発勝負。通常の50%精米では40時間ほどかかるところを、40%精米ではその2倍となる100時間ほど、約5日間の日数がかかります。

「きれいに整うかどうか......。これまでやったことがなかったので、どんな仕上がりになるか不安でしたが、予想以上に仕上がりがよかった。粒ぞろいで、本当にきれいな米になりました」

そもそも、なぜそれほど長い時間がかかるにもかかわらず、「精米歩合40%の五百万石」にこだわったのか。それは「久保田」の真髄である、キレのある淡麗で清らかな味わいを表現するために、今の技術でできる限界まで米を磨くことにしたからです。

日本酒研究センター 中村諒さん

「五百万石を精米歩合40%まで磨くことは、朝日酒造としても挑戦でした。ですが、実際にやってみると通常精米で50%磨くよりも砕米を抑え、質の高い米に仕上げることができました。さらに、通常精米の40%よりもたんぱく質の割合が少なく、実際の数値よりもさらに磨いたように感じられるんです」

そう話すのは、朝日酒造の研究開発を担う日本酒研究センターの中村諒さん。「久保田 萬寿 自社酵母仕込」を仕込むためのレシピを考案した方です。

自社酵母を使って実現した、味と香りの調和

「久保田 萬寿 自社酵母仕込」の開発にあたり、これまで「久保田 萬寿」がなぜ多くの方に愛されてきたのか、どんな味わいが評価されてきたのかを、複数の愛飲者からヒアリングし、新たな商品の方向性を探っていったといいます。

そこで浮かび上がったのは、なによりもキレのある淡麗辛口の味わいが支持されているということ。続いて、存在感のあるまろやかなコク、深みを評価する声もありました。

一方で、食の嗜好の変化や日本酒を楽しむシーンの多様化により、「香り」を求める方が多くなってきたことも事実です。

「精米歩合の低い五百万石を使い、仕込みを工夫することで、コクや深みがしっかり感じられながらもキレのある味わいを表現すること。そして、いかに重層的で印象に残るような香りを実現するか。テーマのひとつとして『香り』を意識していました」(中村さん)

そこで着目したのが「自社酵母」。日本酒研究センターには、これまで開発した数千種類の酵母がアーカイブとして蓄積されています。そのなかのどの酵母が今回の酒にふさわしいのか。飲むシーンや温度を想定しながら、「久保田」を象徴する「萬寿」の最上級の味わいを求めて検証していきました。

「一般的に、華やかでりんごのようなカプロン酸エチル系の香りを際立てようとすると、味わいにコクを持たせることが難しいと言われています。その一方で、仕込み方で甘いバナナのような酢酸イソアミル系の香りに着目しながら、コクを与えるということもできるので、こちらをより表現するように仕込みを改良しながら、華やかさがありつつもコクのある味わいを表現できる酵母と仕込みの配合を探しました」(中村さん)

こうして何度も試験醸造を重ねた結果、これまでの「久保田 萬寿」とは異なる酵母により、"萬寿らしい"深みのある味わいと香りの調和を実現。エレガントで重層的な香りと、まろやかなコクを表現した「久保田 萬寿 自社酵母仕込」が誕生したのです。

さらなるおいしさの追求へ

「『久保田』らしさ、『萬寿』らしさというのは、誰かひとりがつくったというよりも、35年の歴史のなかで先人たちが少しずつ築きあげたもの。その『久保田』に関わり、支えてくれた方々には尊敬の念を覚えますし、お客様にも本当に感謝しています。その節目に関われたのは、とてもありがたいことですね」と中村さん。

安澤さんも「こういうタイミングで朝日酒造の一員としていられる喜びは大きいですね」と言葉を続けます。

「次の一手を模索して、それがお客様からどう評価いただけるのかを考える。こうしてものづくりの最前線にいられることは、本当にワクワクするんです」

「今回の精米も大きな挑戦でしたが、さらにプログラムの精度を上げて、いい白米をつくりあげることに挑戦し続けたい」と、広川さんは語気を強めます。

「常に進化するおいしさ」を掲げ、新たな一歩を踏み出す朝日酒造が「久保田 萬寿」シリーズの最高峰として打ち出す「久保田 萬寿 自社酵母仕込」は、まさに"晴れの日"にふさわしい酒。華やかな香りに、複雑で奥行きのある深みとまろやかなコク、そして心地よいキレは、大切な人とともに、その日しか味わえない感情を呼び起こす印象的な一献となるでしょう。

「お酒は、身体でなく"心"で飲むもの。語らいの場を潤し、人に"酔い"、心ゆくまで楽しんでもらいたいですね」と、安澤さん。

「久保田 萬寿」「久保田 千寿」のクオリティアップと、「久保田 千寿 純米吟醸」「久保田 萬寿 無濾過生原酒」、そして「久保田 萬寿 自社酵母仕込」と続く新商品の誕生。「久保田」のブランドリニューアルは、着実に進んでいます。

さらなるおいしさの追求を進める朝日酒造が、どんな"次なる一手"を見せるのか。これからも目が離せません。

文:大矢幸世
出典:SAKETIMES