「美味しい」をつくる10の手――7人目 仕上げる手 藤澤 なつみ
2022.03.04

特集

「美味しい」をつくる10の手――7人目 仕上げる手 藤澤 なつみ

「久保田」などの日本酒を造る新潟の酒蔵、朝日酒造。品質本位の酒造りはそのままに、お客様の美味しさに挑戦しています。そんなお客様の「美味しい」を生み出すつくり手たちにインタビューします。彼らは「美味しい」にどんな想いで向き合っているのか、話を聞きました。第7回目は、調合精製を担う藤澤 なつみさんです。

目次

  1. 瓶詰め前の酒の味を整えていく
  2. 入社15年目の昨年、初めて調合精製の担当に
  3. 原石のような酒を、完成品へと仕上げていく
  4. 味の最終砦として、迷いなく動き始めた手
  5. いつも、どこにいても感じられる朝日酒造のよさ
  6. 「美味しい」をつくる10の手 次回は貼る手

瓶詰め前の酒の味を整えていく

割水を行う藤澤さん

米・水・米麹、たった3つの材料から造られる日本酒ですが、完成するまでには様々な工程を経ており、多くの蔵人の手が加わっています。上槽工程で搾った酒や、濾過・火入れ工程を経て貯蔵された酒は、瓶詰めする前に調合濾過をして味を整えていきます。

朝日酒造では「調合精製」と呼んでいるその作業を担当しているのが藤澤 なつみさん。濾過・火入れ担当の山田さんによれば、「元気がよくて明るい。誰とでも仲良くなれる人です」とのこと。そんな藤澤さんに「美味しい」のつくり手として大切にしていることを聞きました。

入社15年目の昨年、初めて調合精製の担当に

調合精製を担う藤澤さん

――本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、藤澤さんが酒造りに興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか?

藤澤 なつみさん(以下、藤澤):両親が毎日晩酌で「朝日山 百寿盃」を飲んでいたことです。実家は食堂を営んでいて、朝日酒造の酒も仕入れており、かつては店の外に「朝日山」の看板もかかっていて、馴染みがありました。

――そうして入社して、今年で何年目でしょうか?

藤澤:高校卒業後に入社し、今年の4月で丸15年になります。入社後14年間は瓶詰め工程を担当し、昨年から調合精製の担当になりました。昨年は仕事も環境もがらっと変わった1年でした。

――人生で初めて買った酒は覚えていますか?

藤澤:初任給で両親にプレゼントした「久保田 萬寿」の一升瓶です。父も母も日本酒が大好きで、毎晩一合は必ず飲むので、喜んでもらえた記憶があります。

原石のような酒を、完成品へと仕上げていく

唎き酒をする藤澤さん

――それでは、現在の担当である調合精製について教えてください。

藤澤:酒をブレンドし味を整え、瓶詰め工程の担当者に引き渡すのが仕事です。蔵での酒造りがダイヤモンドの原石を作る仕事であれば、調合精製はその原石を磨き上げる仕事だと表現されます。

もう少し具体的に言いますと、搾られた酒は飲み頃まで一定期間タンクで貯蔵しています。貯蔵している間で変化するタンクごとの味や香りの違いを見極め、整えていくのが調合精製の担当者の仕事です。その後、アルコール度数の調整を行い、社内の唎き酒チームによる官能評価に合格をしたら、瓶詰めの担当者へと引き渡します。

朝日酒造では何十種類と酒を造っていますが、調合精製の担当者の手を通らずに瓶詰めされる酒は1つとしてありません。酒質の視点で、お客様に最も近い最終砦と認識しています。お客様から「いつもと味が違う」、「いつもと香りが違う」といったお問い合わせがないよう、常に緊張感を持って作業しています。

――調合精製を担当して1年目とのことで、中でもどの仕事が大変ですか?

藤澤:唎き酒ですね。調合精製の仕事では何回か唎き酒をするタイミングがありますが、特にブレンド前の唎き酒が大変です。貯蔵による味わいの変化を唎き酒で確認し、その結果を踏まえブレンドへと進みます。
私はまだまだ唎き酒の経験が少ないため、違うタンクで貯蔵していた同じ銘柄の酒を比べ、微妙な違いに気付く感覚を取り込んでいる最中です。何十種類と酒を造っている上、同じ銘柄ですら微妙な違いが出るため、一筋縄ではいきませんね。

味の最終砦として、迷いなく動き始めた手

呑切りを行う藤澤さん

――調合精製の担当になってから、藤澤さんの手に何か変化はありましたか?

藤澤:手はタフになってきたかもしれません。お客様の口に入るものを造っていますので、清潔であることは命で、真冬であろうと関係なく、自分の手を使い冷たい水で道具や機械を丹念に洗浄しています。

――ちょうど今、藤澤さんの上司が通りかかったので、お話をお伺いしてみたいと思います。仕事中の藤澤さんの手について、印象的なシーンってありますか?

藤澤さんの上司:貯蔵タンクの栓を「呑み(のみ)」と呼び、栓を開ける作業を「呑切り(のみきり)」と呼びますが、それまでタンクにも呑みにも触れたこともなかった手が、迷いなく動いて呑切りを行っていく様子は私から見てもかっこいいと思います。ひとりでも多くのお客様から「美味しい」という笑顔をいただけるように、藤澤さんを含めた調合精製の担当者みんなの「手」で一緒に探求し、進化していきたいですね。

いつも、どこにいても感じられる朝日酒造のよさ

同僚と話をする藤澤さん

――藤澤さんが朝日酒造の酒の中で最も好きなものを教えてもらえますか?

藤澤:「久保田 純米大吟醸」です。口当たりがよく甘さが感じられ、すうっと入ってくる点が好きです。初心者にもおすすめで、改めて「日本酒がはじめての方にも、ひと口目で実感できる美味しさ」というコンセプトにぴったりな味わいだと思います。

――藤澤さんが思う朝日酒造のよさはどんなところですか?

藤澤:勤めていて本当に素晴らしいなって思うのが、みんな人間性がよいところです。これは入社してから15年経っても、どの部署の人に対しても変わらず感じます。そんな人たちと一緒に仕事をすることで、私自身育ててもらった部分がたくさんあります。特に、入社した当初の配属先の課長には、酒造りに関わることだけじゃなく、人として一から色々教えていただいて、もうひとりの親のように思っています。

――最後に、朝日酒造のファンの皆さんに、つくり手である藤澤さんから聞いてみたいことはありますか?

藤澤:今、朝日酒造ではリキュールだったり、スパークリングや甘酒、にごり酒だったり、新しいものを色々出しています。それを踏まえ、朝日酒造にもっとこういうのも作って欲しいっていうのがあるのかな? こんな味のものが欲しいとか思うことはあるのかな? と特に若い世代に聞いてみたいです。

――本日はどうもありがとうございました。

藤澤:ありがとうございました。

「美味しい」をつくる10の手 次回は貼る手

 (17088)

仕事を語る溌剌とした語り口や上司との信頼関係が伝わるやり取りから、藤澤さんの人柄がひしひしと伝わる取材でした。微妙な違いに気付かなければいけない唎き酒に苦労しているとのことでしたが、誰とでも仲良くなれる藤澤さんが酒ともすっかり通じ合った間柄になる日は、すぐ近くまで来ているように感じました。

日本酒の「美味しい」を生み出すつくり手10人に話を聞き、「美味しい」へ懸ける想いを語ってもらう連載、「美味しい」をつくる10の手。次回は、ラベル貼りを担う吉野 祐子さんが語り手です。

藤澤さんによれば「周りがよく見える人で、何かあった時の対応も素晴らしい。どんな人とも分け隔てのなく話す人で、私も何でも相談してしまいます。大好きな先輩です」とのこと。

そんな吉野さんは、「美味しい」へ懸ける想いを、どんな風に語ってくれるのでしょうか。

次回は3月下旬に掲載の予定です。どうぞお楽しみに。