「美味しい」をつくる10の手――10人目 届ける手 西山 周治
「久保田」などの日本酒を造る新潟の酒蔵、朝日酒造。品質本位の酒造りはそのままに、お客様の美味しさに挑戦しています。そんなお客様の「美味しい」を生み出すつくり手たちにインタビューします。彼らは「美味しい」にどんな想いで向き合っているのか、話を聞きました。最終回は営業を担う西山 周治さんです。
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「久保田」などの日本酒を造る新潟の酒蔵、朝日酒造。品質本位の酒造りはそのままに、お客様の美味しさに挑戦しています。そんなお客様の「美味しい」を生み出すつくり手たちにインタビューします。彼らは「美味しい」にどんな想いで向き合っているのか、話を聞きました。第9回目は、包装や梱包、箱詰めなどを担う飯利 ちかさんです。
目次
米・水・米麹、たった3つの材料から造られる日本酒ですが、完成するまでには様々な工程を経ており、多くの蔵人の手が加わっています。朝日酒造の日本酒は、前回ご紹介したボトリング工程で瓶詰めされると、そのまま箱に詰められお客様の元へ、というものが多いです。その一方で、特別な包装のものや海外に輸出されるものなどは、一本一本人の手で仕上げています。
そういった特殊な包装や梱包を担うのが、今回登場する飯利 ちかさんです。ラベル貼り担当の吉野さんによれば、「話しているとこっちまで和むような優しい雰囲気があります」とのこと。そんな飯利さんに「美味しい」のつくり手として大切にしていることを聞きました。
――本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、飯利さんが酒造りに興味を持ったきっかけを教えてください。
飯利 ちかさん(以下、飯利):朝日酒造のすぐそばにある小学校の出身で、当時、授業の一環で酒蔵見学をしたんです。そこで見せてもらった、唄を歌いながらの酒造りに衝撃を受けました。それがずっと心に残っていて、朝日酒造に入社したいと思うようになりました。
――酒造りの作業の際に歌われてきた作業歌の一種、「酒造り唄」ですね。小学生だと酒蔵見学に来ても試飲ができませんし、もちろん日本酒を飲んだ経験がありませんから、酒造りの魅力を伝えるのは大変そうですけど、飯利さんの心にはちゃんと響いたんですね。
飯利:はい。細かいところまではっきり覚えているわけではないんですが、印象に残りました。採用試験の際の面接でも、その時のことを話した記憶があります。
――それでは、入社してからの経歴を教えてもらえますか?
飯利:今年で入社11年目になりまして、昨年の5月までは、前回登場の吉野さんと同じ、瓶詰めなどを行うボトリング部門に所属していました。入社3年目までは、酒が詰められた瓶を一本一本見て、酒が所定量入っているか、瓶に傷がないか、異物の混入はないか検査する仕事などを担当し、その後は充填などを担当していました。
そして昨年6月からは製品包装等の仕上げを主に担当する部門に所属しています。その中でも、特殊作業、輸出作業と呼ばれる仕事を担当しています。
――特殊作業、輸出作業について、もう少し具体的に教えてください。
飯利:特殊作業というのは、特殊な包装やデザインのため製品ラインでは仕上げることができないボトルの仕上げ作業です。主に、開店祝いなどお祝いに使われる二升半ボトルに入った「益々繁盛」や、朝日酒造の技術を結集し淡麗を極めた味わいの「継(つぐ)」といった商品のラベル貼りや封緘、梱包などの作業を指します。
作業中は瓶に傷がつかないように専用の手袋をして作業を行い、瓶に光を当てて異物混入がないか、瓶や資材に傷がないかを確かめながら梱包しています。
輸出作業では、瓶詰めされた商品に英語のラベルを貼るなど、酒を海外のお客様のところへ届ける姿にしていく作業を行っています。こちらは5~6人でやっていて、今日はアメリカ行きの「久保田 千寿」をみんなで仕上げるぞ、終わったら次は韓国行きを仕上げるぞ、といった感じで取り組んでいきます。
前回登場した吉野さんが、「朝日酒造では、商品にラベルを貼る作業は一部の商品を除きほぼ全て機械で行っている」と紹介していましたが、これらの商品が、その「一部の商品」に当たります。ラベルは一本一本手作業で貼っているんです。
精米から瓶詰めまで、みんなで仕上げてきたものを梱包する仕事であり、加えて、自分のチェックが朝日酒造における最終砦だと思うと緊張感がありますが、やりがいのある仕事です。一本一本、いってらっしゃいと思いながら梱包しています。
――現在所属している部門はどんな雰囲気ですか?
飯利:パレットの上に山積みになった商品を仕上げ終わった時には、「やり切ったな!」という達成感をみんなで分かち合える、そんないい雰囲気の部門で、働きやすいです。
本当にみんな、日本酒がすごく好きな人たちなんです。休憩時間も日本酒の話で盛り上がるので、一緒に話していると、休憩時間であっても毎日勉強になります。日本酒に合う料理の話に花が咲くことも多いので、料理のレパートリーも増えました!
――入社してから先輩に言われて印象的だった一言はありますか?
飯利:「あなたが頑張ってるところを、見てる人は見てるから」ですね。仕事でうまくいかず悩んでいた時に、そう声をかけてもらい、励まされました。
――酒造りに携わるようになってから、飯利さんの手に何か変化はありましたか?
飯利:世界中の人に美味しく飲んでいただき、お客様が笑顔になれるように、という気持ちを手や指先に込めながら作業するようになりました。
――これから朝日酒造で叶えたい夢はありますか?
飯利:実は、好きなアーティストの誕生日に手紙をつけて朝日酒造の酒をプレゼントしたことがあります。美味しいと思ってもらえたらいいな、と思いますし、いつか酒蔵見学に来てほしいな、というのが私の夢です。
――飯利さんが朝日酒造の酒で一番好きなのはどれでしょうか?
飯利:「柚子ノムネ」です。柚子の酸味と炭酸でさっぱりフレッシュな飲み口で、暑い夏の日に飲むのがおすすめです。アルコール度数も低いのですっと飲めます。
――飯利さんが思う朝日酒造のよさはどんなところですか?
飯利:紅葉やホタルといった自然を保護する活動をしているところです。
朝日酒造では越路地域全体の緑化の一環として、紅葉の苗木を育て、地域の新中学生に入学記念として贈る活動を毎年行っています。私もこの町の出身なので、中学生になった時にもらいました。
また、「ホタルが飛び交う酒蔵を作ろう」という思いのもと、ホタルの定点観測を継続して行っています。実際に飛んでいるホタルを目にすると、水がきれいなんだなと感じられてやっぱり嬉しいですね。
あとは、米づくりから関われるところも魅力だと思います。朝日酒造は農地所有適格法人「有限会社あさひ農研」を設立して、酒米の栽培や研究をしていますが、私も研修で米づくりに携わらせてもらいました。
――最後に、朝日酒造のファンの皆さんに、つくり手である飯利さんから聞いてみたいこと、伝えたいことはありますか?
飯利:私は飲むのも食べるのも好きなので、ファンの皆さんが朝日酒造の日本酒にどんなおつまみを合わせているか聞きたいです。
伝えたいことは、飲んでいただいてありがとうございます、ということです。美味しいって言っていただけるとやりがいに繋がります。以前、「にいがた酒の陣」でお客様に酒を注いだ時は、間近で「美味しいよ」という声が聞けて、また頑張ろうと思いました。
今回の取材で印象的だったのは、大好きなアーティストに朝日酒造の酒を贈っているというエピソード。自信を持って憧れの人に贈れるのは、飯利さんがつくり手として嘘のない仕事をしている証だと感じました。また、酒は一人で造ることはできません。多くの蔵人が少しずつ自分の仕事を果たして造った酒を憧れの人に贈ることは、朝日酒造でともに酒造りに打ち込む仲間への信頼の現れですね。
日本酒の「美味しい」を生み出すつくり手10人に話を聞き、「美味しい」へ懸ける想いを語ってもらう連載、「美味しい」をつくる10の手。次回は、営業を担う西山 周治さんが語り手です。
飯利さんによれば「気さくで楽しい人です。新入社員研修の際、営業に行く西山さんに同行したことがあります。酒販店さんと話している姿から、取引先に信頼されているんだなと感じました」とのこと。
そんな西山さんは、「美味しい」へ懸ける想いを、どんな風に語ってくれるのでしょうか。
次回は5月上旬に掲載の予定です。どうぞお楽しみに。