酒蔵で納豆がNGなのはどうして? その理由に迫る!
酒蔵にとって大敵である納豆。なぜ酒蔵に納豆菌を持ち込んでしまうことがNGなのか、その理由を探っていきましょう。
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麹菌(きくきん)とはカビの一種です。この麹菌が日本酒造りにおいて、とても重要な役割を担っています。本記事では、日本酒における麹菌の役割を紹介するとともに、酒造りにおける重要な工程のひとつ「麹造り」についても紹介します。知られざる麹菌のパワーを、じっくりと紐解いていきましょう。
目次
麹菌とは、別名コウジカビともいい、いわばカビの一種です。
この麹菌を蒸した米や麦、大豆などの穀物に付着させて繁殖させたものを麹といいます。日本酒を始め、味噌や醤油など、日本の伝統的な発酵食品の製造に欠かせない存在です。
まずは日本の食品との関係や、麹菌のはたらきについて紹介します。
麹菌の起源は中国にあると言われていますが、なんと紀元前から麹菌が使われていたようです。
中国から日本に麹菌が伝わった正確な年代は不明ですが、日本の文献に最初に登場するのは8世紀。奈良時代の文献「播磨風土記」に、「神様の供物である米飯が濡れてカビが生えたので、その麹菌を使って酒を醸した」という記録が残っています。
古より日本の食生活に深く結びついてきた麹菌は、2006年10月に日本醸造学会大会において、国菌(その国を代表する菌)に認定されました。
麹菌から作られる食品にはさまざまな種類があります。日本の代表的な調味料や酒類のほとんどが、麹菌を使用していると言っても過言ではありません。
麹菌には、大きく分けて黄麹菌、黒麹菌、白麹菌の3種類があります。黄麹菌でつくられる主なものは、日本酒、味噌、醤油など、白麹菌は焼酎、黒麹菌は泡盛などが挙げられます。
発酵食品に欠かせない存在ゆえ、麹菌自体に食品を発酵させる力があるように思えるかもしれませんが、実はそうではありません。麹菌は、その酵素によってデンプンなどの成分を分解して甘味や旨味を最大限に引き出す役割を持っています。そして、乳酸菌などの他の菌によってさらに発酵が進むというわけです。
麹菌によって造られる麹は、ビタミンB群や葉酸などの栄養を豊富に含んでいます。米麹から造られる甘酒が、別名「飲む点滴」と呼ばれるのも、とても栄養価が高いことに由来しています。そんなたくさんの栄養素を持つ麹は、多くの効果・効能を持つことでも知られています。ここで、その一例を紹介します。
・美肌の促進
米麹に含まれる成分のはたらきで、肌の角質層にあるセラミドを増加することが解明されています。肌の保湿性を高めるセラミドの増加によって、美肌の促進が見込めると言われています。
・メタボリックシンドロームの改善
麹に含まれるグルコシルセラミドという成分には、中性脂質吸収抑制などに効果があるとされています。今後さらに研究が進めば、麹がメタボリックシンドロームの改善に広く役立てられていく可能性があります。
このように麹の持つ効果・効能は多方面にわたり、益々その可能性への期待が高まっていくことが予想されます。
日本酒好きなら、「一麹、二酛(にもと)、三造り」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。日本酒造りにおいて、何より重要なのは麹造りであり、次いで「酛(もと:お酒の元となる酒母)造り」、もろみを仕込む「造り」という順番になります。
酒造りにおいて、重要視されている麹菌にはどんな役割があるのかを紹介します。
麹菌が活躍する工程の前に、まずは酒造りに欠かせないアルコール発酵の説明をしておく必要があります。アルコール発酵とは、原料に決められた条件下の元で酵母を加えることで、原料の糖分をアルコールと炭酸ガスに変えることを指します。この酵母が行うアルコール発酵により、美味しい日本酒ができあがるのです。
酒造りにはアルコール発酵が欠かせませんが、酒米を蒸して水と一緒に酵母をタンクへ入れるだけでは、アルコール発酵することはできません。なぜならば、もともと米の主成分はデンプンであり、アルコール発酵を可能にする糖分は含まれないからです。
そこでいよいよ、麹菌の出番です。麹菌には米のデンプンを糖化する重要な役割があり、その糖を酵母がアルコールに変えることで、日本酒になります。糖化と発酵が同時に行われることを並行複発酵といいます。だからこそ、麹菌と酵母の存在なくして日本酒造りは成り立たないのです。
麹菌は、酒造りにおいて「デンプンの糖化」という重要な役割を担う他にも、日本酒の「味わい」にも大きく影響しています。
麹菌は「たんぱく質分解酵素」も持っており、米のたんぱく質を分解してアミノ酸を生成します。このアミノ酸こそが、日本酒の深いコクや香りのもと。麹菌は、米から旨味やコク、豊かな香りを引き出す役割も果たしているのです。
「一麹、二酛(にもと)、三造り」という言葉があるように、麹菌を繁殖させる「麹造り」は、酒造りにおける重要な工程のひとつです。麹造りは「製麹(せいぎく)」と呼ばれています。
具体的には、洗って蒸した酒米に「種麹」と呼ばれる麹菌を付着させ、米の中で繁殖させます。良い麹を造るためには、徹底した温度管理が欠かせません。通常、麹造りの作業は30℃前後に保たれた麹室(こうじむろ)という場所で行われます。
麹室で管理をしながら麹造りをする過程で、麹菌は米の中に菌糸を伸ばしながら繁殖していきます。
麹菌の繁殖形態は「破精(はぜ)」、麹菌の繁殖具合は「破精込み具合(はぜこみぐあい)」と呼ばれ、杜氏は破精込み具合を入念に確認しながら、造る酒に応じて次の工程のタイミングを待ちます。
破精の形態には主に2種類がありますが、そのうちの1つが「突破精型(つきはぜがた)」。この段階では、蒸した米の表面に斑点状に破精が広がり、破精の部分とそうでない部分がはっきり分かれています。また、適度なたんぱく質分解力を持っているのも特徴です。
突破精型の米麹で造られた酒は淡麗で上品に仕上がるため、吟醸酒の仕込みに適しています。
総破精型(そうはぜがた)とは、麹菌の菌糸が蒸米の表面を覆いつくし、米の内部にも深く菌糸が食い込んだ状態を指します。
糖化やたんぱく質を分解する酵素の力が強く、酛仕込みに使用する「酒母麹」にも適しています。総破精型の米麹で造られた酒は、どっしりとした酒質に仕上がります。
麹菌の胞子の大きさは、わずか3~10マイクロメートル。この、肉眼で見えないほど小さな微生物達が、日本酒造りにおいて重要な役割を持つことを知ると、日本酒の奥深さに触れられるような気がしてきませんか?日本酒愛好家のたしなみとして、ぜひ麹菌の持つパワーや、日本酒造りにおける麹菌の役割を覚えておいてくださいね。