日本酒の「甘口」「辛口」とは?知ればお酒選びがもっと楽しくなる!
2024.05.10

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日本酒の「甘口」「辛口」とは?知ればお酒選びがもっと楽しくなる!

飲食店で「辛口のお酒ください」という言葉をよく耳にします。お酒は苦手だから甘い方がいいとか、食事には辛口が合うだろう、そんな偏ったイメージにとらわれていませんか。日本酒の甘口、辛口というのは基本的な決まりはあるものの、実際に色々飲んでみると想像とは違う味わいがあることに気づきます。甘さや辛さにはお酒に含まれる様々な要因が絡んでいるのです。どういったお酒が甘いのか、辛口とはどんなお酒なのか、ちょっと知ることで苦手と思っていたお酒も美味しいと感じるようになるかもしれません。お酒の甘辛について解説しましょう。

目次

  1. 甘辛の目安になる「日本酒度」
  2. 甘口 / 辛口に影響する要素
    1. 酸度
    2. 苦味、渋味
    3. 香り
    4. 温度
  3. 日本酒は「甘口」「辛口」では決められない!日本酒を何倍も楽しもう

甘辛の目安になる「日本酒度」

日本酒の裏ラベルや酒販店の商品紹介、メーカーのサイトに記載されている「日本酒度」は甘口、辛口の目安となる数値になります。
日本酒度 -1.4~+1.4 程度が中庸と言われていて、それより日本酒度が小さく(よりマイナスに)なると甘口、大きく(よりプラスに)なると辛口となります。
甘口、辛口といっても砂糖のような甘さだとか唐辛子のような刺激的な辛さという訳でもなく、糖の含有量を示す訳でもありません。日本酒度とは酒の比重なのです。

日本酒度

現在は振動式密度計で計測するメーカーが増えてきましたが、日本酒度計と呼ばれる浮秤(うきばかり)を浮かべて計測している蔵も多くあります。この日本酒度計は4℃の真水に浮かべた時に数値が0になるよう作られていて、お酒の日本酒度を測定する際は15℃で測定し、その時、4℃の真水よりも軽い酒に浮かべるとプラスになり、水よりも重い酒ならマイナスの数値を示します。

日本酒度計(浮秤)

日本酒の醪(もろみ)が発酵していく時、酵母が糖を消費してエタノールを出していきます。糖は水よりも重く、エタノールは水よりも軽い物質なので、発酵が進んでいくにつれて酒の比重は小さくなります。多くの現場で日本酒度を計測し、醪を搾る日程を決めているため、日本酒度は醸造過程で発酵の進行をうかがい知る指標として用いられています。

つまり、比重が小さい酒は酵母がたくさん糖を消費したことを意味し、糖が少ない=辛口と考えられています。酵母は糖を取り込みエタノールを出していくので、日本酒度の数値のみを当てはめるとエタノールの風味が強いことで日本酒の辛口と言えるかもしれません。しかし、それだけで単純に甘口か辛口かと決めることは出来ないでしょう。

甘口 / 辛口に影響する要素

日本酒の甘さと辛さを捉えるのは日本酒度だけではありません。滑らかなテクスチャーで甘口と感じたり、キレの良さで辛口と感じる事もあります。

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酸度

酸度とは日本酒に含まれる有機酸の量を表しており、一般的に1.4〜1.6程度が中庸と言われています。中でも日本酒に多く含まれる有機酸は、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸です。

乳酸は日本酒の味わいを決めるのに重要な酸で、乳酸菌から生成される有機酸です。日本酒造りで乳酸菌が活躍するのは生酛(きもと)、山廃(やまはい)の造りです。酒母(しゅぼ)を造る際に天然の乳酸菌を繁殖させ生成された乳酸が、雑菌からの汚染を防ぐのです。一方、現在の酒造りの主流である速醸の場合は、醸造用に製造された乳酸を酒母を造る際に添加します。この醸造用乳酸は醸造用資材規格協議会がしっかりと品質保証を行なっており、安定して雑菌を抑え、気温などの影響を受けにくく、一定の品質の酒母を造ることができます。
乳酸単体では刺激的なギスギスとした酸味ですが、ぬか漬けやヨーグルトにも含まれていて、これら食品に含まれる状態ではまろやかな印象を与える酸なのです。

コハク酸も日本酒の味に影響を与える酸。貝類にも多く含まれ、酸っぱいという印象よりうま味を感じる酸ですが、多すぎると苦みの影響が大きくなってしまいます。

リンゴ酸はまさにリンゴから発見されたのでその名が付きました。リンゴ酸を多く生成するリンゴ酸高生産性酵母という種類があり、これを使用したお酒はスッキリとした酸が目立ちます。

クエン酸は柑橘類に含まれる酸。クエン酸は雑菌の繁殖を抑えるので、例えば気温の高い地域で造られる焼酎には白麹菌や黒麹菌が使用されています。日本酒では基本的に黄麹菌が使われますが、麹に白麹菌を使うことでクエン酸を多く生成し、軽快で爽やかな酸を感じ取ることが出来ます。

これらの酸と甘さは相殺しあう要素のため、酸度が高ければ日本酒度がマイナスだったとしても辛口と捉えられる場合もあります。特にリンゴ酸やクエン酸が多いお酒はすっきりとして爽やか、キレの良さもあり、こういった味わいを「辛口」と感じることも多いでしょう。

苦味、渋味

コハク酸が多い場合も、苦味を感じますが、アルコール度数が高い場合もアルコールの苦味を感じ、熟成して色が付いている場合も苦味はあります。苦味や渋味、他にも発泡している時のガス感といった刺激は、実際より辛口と感じる要素となります。
また、アミノ酸も苦味を感じる要因ではありますが、ある程度であればうま味が滑らかな印象を与えて甘口と感じ、極端に少なければドライで辛口寄りに感じます。

香り

お酒を注ぐ時や、酒器を口へ運んだ瞬間、やはり一番最初は香りの印象が強いのではないでしょうか。
特にフルーティーで華やかな吟醸香は果実を想像し、日本酒度の数値が辛口を示していても甘口の印象を与えます。逆にフレッシュですっきり、清涼感のある香りは辛口と感じるでしょう。

温度

コーヒーやジュースなど、冷たい時はそれほど甘くなかったのに時間が経ってぬるくなると甘くなっていた、という経験はありませんか?人間は体温に近い35℃あたりで一番甘さを感じ、そこから離れるほど比較的甘さを感じ難くなります。そのため、キリッと冷やしたお酒は甘口でもそれほど甘く感じず、逆に60℃くらいまで熱めにした燗酒も常温の時より辛口と感じます。

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日本酒は「甘口」「辛口」では決められない!日本酒を何倍も楽しもう

アルコール度数、日本酒度、酸度、アミノ酸度など知っていれば、記載されているお酒の場合ある程度味の想像がつきます。知識を深めることで日本酒の味わい方も変わり、理解することでさらに日本酒が好きになることでしょう。今まで辛口一辺倒だった方も、味の構成・バランスを知ることで違ったお酒も好きになるかもしれません。
また、好みと違うお酒でも温度や酒器によって好きな味わいへと変化させたり、飲食店で飲みたいお酒のイメージをはっきり伝える事も可能。甘口、辛口だけにこだわっていては好みのお酒を見逃している可能性もあります。
「フルーティーだけどこれは甘口?」「香りは少なく軽快だけど、本当に辛口?」と考えながらいろいろ試すのも楽しいと思いませんか。甘口と辛口を知ることで自分の好みも理解し、日本酒選びの幅も広がることでしょう。

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まゆみ

まゆみ

酒匠、料理研究家。 1日も欠かすことなく酒を呑み続ける驚胃の持ち主。酒と蕎麦と音楽を愛する。著書「うち飲みレシピ」「スバラ式弁当」。