「アウトドア飲み」がもっと美味しくなるテクニックとアイテム
コロナ禍でブームとなっているアウトドアレジャー。そんなアウトドアに欠かせないのが美味しいご飯とお酒です。「アウトドア飲み」で日本酒をもっと美味しく楽しむためのテクニックとアイテム、さらには、おすすめのアウトドア用の日本酒もご紹介します。
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キャンプでよく作られ、おつまみにも絶品なものに燻製料理があります。その燻製ですが、実は100均製品だけで簡単に作れることをご存じでしょうか? 今回は、日本キャンプ協会インストラクターで唎酒師でもある渡邉彰大さんに「100均製品だけで簡単に作れる燻製の方法」をレクチャーしていただきます。燻製の代名詞「いぶりがっこ」や「スモークチーズ」などのおつまみを美味しく作っていただきました。
目次
日本キャンプ協会インストラクターで唎酒師の渡邉彰大と申します。「大自然の中、いかに美味しくお酒を嗜むか」をライフワークに、キャンプにて津々浦々のお酒を賞味し、その知見をお伝えする仕事をしています。
「燻製」もキャンプの酒宴を大いに引き立ててくれる料理の一つ。手間がかかりそうなイメージがありますが、凝った作り方をしなければ意外と簡単にできます。
私がキャンプの指導をしているときも、「こんなに手軽にできるならもっと早く挑戦すればよかった」と言うキャンプ初心者の方は多くいらっしゃいます。
そして一番のネックだった道具に関しても、100円ショップでの品揃えが年々充実していき、ついに100均の製品だけで完結させられるようになりました。100均燻製法でも、色も香りもしっかりついた美味しい燻製ができますので、ぜひ気軽にトライしてみてください。失敗しないコツもしっかり解説します。
上の画像に写っているのが、今回の燻製に必要な資材です。すべて100円ショップで揃えることができます。今回はすべての製品をダイソーで揃えましたが、値段は一つあたり200~300円のものも含まれていますのでご注意ください。
・ダンボール燻製器 110円
・焼き網(27 × 27cm) 110円
・スモークウッド(今回はサクラ) 220円
・高さのある金網(今回はポケットストーブ用五徳網を使用) 110円
・焚き火シート(芝生などの地面保護に。直火禁止のキャンプ場では必須) 330円
必須ではありませんが、アルミホイルもあると便利です。
また、上の資材とは別にスモークウッド着火用の火器(カセットコンロやトーチ型バーナーなど)が必要です。ライターやマッチでは火力不足で着火できませんので、ご注意ください。
今回燻製する食材はこちらの6種類。燻製の定番品に加え、あまり一般的ではないものの美味しい食材をチョイスしました。
・いぶりがっこ(たくあん)
・チーズ
・イカ
・ししゃも
・さつま揚げ
・厚揚げ
※いぶりがっこの作り方
秋田の郷土料理「いぶりがっこ」は本来、大根を燻ったあとに漬けものにするという作り方をします。よって、たくあんを燻製するのは伝統的な製法とは違いますが、今回は簡単な作り方としてこちらの方法で行います。この方法でも本場のいぶりがっこを彷彿とさせる、燻製香豊かな「いぶり・たくあん」ができますのでご安心ください。
※要加熱の生ものは控える
イカやししゃもは、加熱済みのものを使います。燻製は、燻製中の温度が高い順に「熱燻」→「温燻」→「冷燻」という3つの手法があり、今回の方法は「温燻」です。主に加熱の必要がない食材を香りづけする手法になります。食材を探すときは温燻に対応するものを選ぶようにしてください。ちなみに「熱燻」は、生の肉・魚を加熱殺菌しながら香り付けできる手法。「冷燻」はスモークサーモンをつくる際など、熱を加えたくないものを香り付けできる燻製法です。
今回の燻製は、以下の4ステップで行います。
1. 食材の下準備(カット・乾燥)
2. ダンボール燻製器の組み立て
3. スモークウッドの着火
4. 1~2時間静置(燻製)して完成
①たくあんは、最初に輪切りにしておきます。今回は燻製時間が短いため、食材の表面積を大きくし、燻製香を染み込みやすくするためです。ちなみに本場のいぶりがっこは、2~5日間ほど燻します。
②たくあんとイカは、風通しのいいところに1~2時間置きます。水分の多い食材は、表面を乾燥させる必要があるためです。それ以外の食材も、クーラーBOXから取り出して常温に戻しておきます。
※食材を乾燥させる理由
燻製前にしっかり乾燥させないと、燻製によって食材が驚くほど酸っぱくなります。スモークウッドの煙に含まれる酢酸などの有機酸が食材表面の水分に溶けこむためです。乾かさない食材も、夏場はクーラーBOXから取り出した直後は結露がたくさんつくため、このタイミングで常温に戻します。
※乾燥に使う道具について
写真で使用している金網は、100円ショップで売られている「メスティン用蒸し網」という製品です。適当なものがなければ、ペーパータオルをひくだけでもOK。屋外は虫が寄り付きやすいので、干し網を使うのがベストです。これも100円ショップで販売されています。
③次に、折りたたまれた状態のダンボールを組み立てます。
小学生用の工作キットのように誰でも簡単に組み立てられるようになっています。
側面にあらかじめあけられている細長い穴から、焼き網を挿入します。
ペーパータオルで水分を拭き取り、食材を並べます。
④乾かした食材を並べていきます。再度表面を拭き取り、できるだけ水分が残らないようにします。
チーズは底面のアルミ箔を残すと、金網とのくっつきを防止できます。
次の工程で、食材を乗せた焼き網の下にスモークウッドを入れ、燻していきます。スモークウッドの直上が最も煙を浴びる位置であるため、その位置に「香りや色をより強くつけたい食材」を配置するのがおすすめです。
今回使うスモークウッドは「サクラ」です。
⑤地面に「焚き火シート」を敷きます。その上に、「アルミホイル」→「五徳網」→「スモークウッド」を置き、バーナーでスモークウッドを着火します。上面全体をしっかり炙ってください。
※五徳網を使う理由
スモークウッドの立ち消えを防ぐためです。スモークウッドをアルミ皿などにいれると、通気性が悪く煙が消える恐れがあります。高さのある網にのせれば、スモークウッドの底面側にも空気の流れができ、燃焼に必要な酸素をスムーズに供給できます。灰を回収しやすいように、網の下にアルミホイルを敷くのもおすすめです。
※スモークウッドは2つに割るのがおすすめ
上の写真ではスモークウッドを2つに割っていますが、これは食材にできるだけ均等に煙が当たるようにするためです。ダンボール燻製器は密閉性が高くなく、スモークウッドの直上にある食材以外には燻製の色が付きにくい傾向があります(香りは端の方でも充分に付きます)。スモークウッドを2箇所に少し離して配置し、煙の一極集中を防ぎましょう。
食材をのせた燻製器を、スモークウッドの上にかぶせるように設置。
⑥燻製器を、着火したスモークウッドの上に設置します。焼き網ごしにスモークウッドの位置を確認し、燻製器の中心あたりにくるように位置を調整しましょう。
サクラのスモークの芳しい香りがただよってきます。
⑦燻製器上部を閉じたら、燻製開始です。スモークウッドが燃え尽きるまで、1~2時間ほど燻します。
※燻製中も目の届く場所に
可能性は極めて低いですが、スモークウッドからダンボールに引火する可能性はゼロではありません。常に一人は目の届くところにいるようにしてください。
⑧1~2時間ほどして煙が消えたら、調理完了です。上蓋を開けて、さっそく中身を確認しましょう。
待ちに待ったこの瞬間。はやる気持ちと空腹でダンボールをひっくり返さないように気をつけてください。大人でも泣いてしまうくらい、ショックを受けることになります。
良い色に仕上がりました。チーズもイカもししゃももたくあんも、いい塩梅ですね。立ち上がってくる燻製の香りにも食欲をそそられます。これで最高の「酒菜」が完成しました。早速、宴の準備に取りかかりましょう。
実際に手を動かす時間こそ短いものの、食材の乾燥を含めると3~4時間かけて作った今回の燻製。
せっかくなら、その良さを存分に引き出してくれるお酒とともに食したいのが人情というものです。
今回は、日本キャンプ協会インストラクター × 唎酒師として「どうすればキャンプでの晩酌がより豊かになるか?」を探求し続けている私に、各燻製とお酒のペアリングを少しだけ紹介させてください。
燻製おつまみの定番中の定番にして最高の前菜「いぶりがっこ」
日本生まれの燻製料理「いぶりがっこ」。そこにはやはり同じ日本生まれのお酒を合わせたくなります。味も雰囲気も、相性は抜群です。
キャンプという”雰囲気を味わう”レジャーにおいては、料理やお酒の背後にあるストーリーもペアリングさせると、酒宴の満足度が格段に高まります。唎酒師キャンパーとして、私が大切にしているポイントです。
中でも一線を画すのが、「久保田 千寿 純米吟醸」とのペアリング。
千寿 純米吟醸の凛とした味わいの中にある、澄んだ旨味と穏やかな酸味。それらは、いぶりがっこの漬物ならではの塩味と大根由来の自然な甘みと見事に調和しつつ、最後に香る桜木の燻製香を奥ゆかしく引き立ててくれます。
同じく燻製には欠かせない「スモークチーズ」
キャンプの定番でもあるスモークチーズ。そこに寄り添うのは、アウトドアシーンで楽しむために開発された日本酒「久保田 雪峰」。あのスノーピークとのコラボレーションにより生まれたお酒です。
自然界の乳酸菌を利用した製法「山廃仕込み」で造られており、同じく乳酸発酵により生まれたチーズと同じ生い立ちをもつお酒でもあります。
チーズの「芳醇さ」と、お酒の「まろやかな旨味」「軽快な酸味」とが接点となり重なり合う味わい。そして、立ち上がる桜の燻製香とともに酒本来の甘みが花開くように広がり、得も言えぬマリアージュを体験することができます。
スモークにより旨味が濃縮「イカの燻製」
酒菜の代名詞ともいえる「イカ」。燻製をする上でやはりこの食材は外せません。
その味わいをより一層引き上げてくれるのが純米大吟醸の「久保田 萬寿」。
水分が抜け旨味が凝縮されたイカの燻製と、萬寿の重厚で複雑な味わいとの、深みのある調和。そして、甘さを思わせる桜木の燻製香と、萬寿の華やかで上品な吟醸香が混ざり合い、至福の余韻となってキャンプのひとときを彩ってくれます。
程よい甘みのある「さつま揚げの燻製」とも非常に相性が良く、ぜひ試していただきたい見事なペアリングです。
今回は100均製品だけでできる、簡単な燻製の方法をご紹介しました。
紹介した手順通りに行えば初心者の方でも簡単に行えますので、ぜひ試してみてください。
そして、せっかく作った燻製には、その味わいをよりいっそう引き立てるお酒を少しだけこだわって選んでみてください。キャンプでの晩酌が、より彩りある時間へと変わるはずです。
それでは、この記事が皆さまの「自然と酒の余暇」をより良いものにする一助となれば幸いです。乾杯。
profile
渡邉彰大 (日本キャンプ協会認定インストラクター/唎酒師)
自然の美しさと心地よさ、そこで飲むお酒の、普段とは別格の味わいに心を打たれ、たちまち虜に。その素晴らしさと楽しみ方を伝えるため、各種メディアでの発信や、実地での指導を行っている。いま最も伝えたいことの1つが、「日本酒とキャンプ」の組み合わせの妙。「なぜキャンプに日本酒か?」「日本酒キャンプの楽しみ方」について、Yahoo!ニュース連載『自然と酒の余暇』、自身のブログなどで発信中。
食材を乾かしている間に、燻製器の準備をします。