なぜ茶色が多い? 日本酒の瓶の色にまつわる豆知識
2022.05.19

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なぜ茶色が多い? 日本酒の瓶の色にまつわる豆知識

日本酒の瓶には茶色や緑色が多いのはなぜか知っていますか? この二色、実は日本酒を美味しく飲むために選ばれた、理にかなった色なのです。本記事では、日本酒の瓶にまつわる豆知識をご紹介します。

目次

  1. 茶色や緑色が多い日本酒の瓶
  2. そもそも瓶にはどんな色があるのか
  3. その中でも、なぜ茶色や緑色が多いのか
  4. 紫外線のほかにもあった! 瓶の色が日本酒に与える影響
    1. 青系の瓶を使っている「久保田 千寿 純米吟醸」は大丈夫?
  5. 美味しく飲むために選ばれた色

茶色や緑色が多い日本酒の瓶

並べられた日本酒の一升瓶

日本酒売り場を訪れてみると、ふと気になるのが瓶の色。最近でこそカラフルな瓶も増えてきましたが、多くは茶色や緑色です。

特定の銘柄に絞っても、その傾向は変わらないようです。たとえば、新潟県長岡市の酒蔵、朝日酒造の「久保田」では、銘柄の中の5割強で茶色や緑色の瓶を採用しています。

日本酒の瓶の色は、なぜ茶色や緑色が多いのでしょうか? そのほかの色の瓶とはどう違うのでしょうか? ここからは、日本酒を詰める瓶の色にまつわる豆知識をご紹介します。

そもそも瓶にはどんな色があるのか

太陽の光に美しく影を照らす3本の瓶

そもそも瓶の色にはどんな色があるのでしょうか?

瓶メーカーのカタログを開いてみると、意外にも、そこには色とりどりの瓶が…というわけではありません。カタログに掲載されているのは無色透明のほか、茶、緑、黒、青といった色の瓶です。

このように瓶の色が特定のものに限られているのには、ガラスの着色方法が関係しています。

瓶に使われているガラスの色の元になっているものは、金属の酸化物。それをガラスの原料に加えて溶かすことで、化学反応が起こり発色するのです。たとえば酸化コバルトであれば青、酸化鉄であれば緑、といった具合です。
そして、この方法で発色させられるのは、茶、緑、黒、青などの限られた色のみで、それ以外は発色させるのが難しいのです。

「でも、赤色の瓶に入った日本酒を見たことがあるけどなあ…」と思った方も多いと思います。
このような瓶は、違う方法で色が付けられています。無色透明の瓶に、スプレーなどで塗料を吹きつけて電圧をかけて付着させる、静電塗装と呼ばれる方法です。この静電塗装を活用すると、瓶を好きな色にしたり、グラデーションをつけたりすることも可能です。

ちなみに、どちらの方法で着色された瓶なのかは、栓を開ければ簡単に見分けることができます。栓を開けた時、瓶の口部まで着色されていれば前者の方法、着色されておらず無色透明であれば、後者の塗装による方法です。

その中でも、なぜ茶色や緑色が多いのか

たくさん並んだ茶色や緑色の瓶

それでは、限られた色の中でも、日本酒の瓶に茶色と緑色が多いのはなぜなのでしょうか?

その理由は、茶色や緑色の瓶は紫外線を遮断してくれるからです。

日本酒の味わいに影響を与えるものの一つとして、紫外線が挙げられます。日本酒は、太陽光や蛍光灯などの紫外線に当たると変質してしまい、色が変わったり、味が悪くなったり、「日光臭」と呼ばれる鼻を突く、飲み手にとっては不快な臭いが発生したりしてしまいます。

日本酒でよく見かける茶色の瓶は、日本酒の大敵である紫外線をほとんど通さないということが分かっています。そして、茶色に続いて紫外線を防ぐ効果が高いのが緑色の瓶ということも判明しています。
そのほかの色だと、黒色の瓶などの中に紫外線の遮光性を持ち合わせているものもあるそう。

お店に入荷した日本酒が入荷の当日に全て売り切れたり、あるいは買った人が買ったその日に全て飲み切ったり、ということはなかなかありません。店頭などで紫外線による日本酒の変質を防ぐため、紫外線防止効果の高い茶色や緑色の瓶が使われることが多いのです。​

反対に、無色透明の瓶や青系の瓶は、茶色、緑色の瓶に比べると紫外線を通しやすい色です。
このように瓶の色によって紫外線防止効果に差がありますが、買ってきた日本酒は瓶の色に関わらず、紫外線が当たらない冷暗所で保存するのが安心です。

ところで、かつて日本酒は樽に詰められており、瓶に詰められた日本酒が登場したのは明治末期。完全な殺菌が難しいといった樽詰めの課題を解決できる瓶は、大正の終わり頃から普及し始めたと言われています。
紫外線が原因の「日光臭」が、当時は瓶が原因と考えられ、「びん香」と呼ばれていたそうです。

紫外線のほかにもあった! 瓶の色が日本酒に与える影響

青系の瓶

紫外線を遮断してくれるかどうかといった観点以外にも、瓶の色によっては、瓶自体が日本酒に影響を与える場合があります。
色の違う瓶で同じ日本酒を熟成させたところ、青系の瓶で老香(ひねか)と呼ばれる劣化臭などが特に強く感じられるようになった、という実験結果もあり、これは発色のためガラスの原料に加えた金属の酸化物が溶け、日本酒に影響を与えたためとされています。

つまり青系の瓶が、日本酒の香りを劣化させてしまうことがあり得るのです。

青系の瓶を使っている「久保田 千寿 純米吟醸」は大丈夫?

久保田 千寿 純米吟醸のある食卓

朝日酒造では、上品で穏やかな味わいが特徴の「久保田 千寿 純米吟醸」に、ベネチアンブルーライトという青系の瓶を採用しています。商品化に際しては、青系の瓶で老香がつかないものはないか独自に社内調査を行って、問題ないことを確認したそう。

具体的には、瓶に入れた状態で加温し半年相当熟成させたり、室温で24時間蛍光灯を当てた状態で2カ月程度試験を行ったり、といった調査をしました。複数の青系の瓶を試験した結果、中でもベネチアンブルーライトは、瓶による老香の着香の影響がみられませんでした。

そこまでして青系の瓶を採用したのは、千寿 純米吟醸の綺麗な味わいを表現するため。口に含んだ時のすっきりした味わいを、青という色合いで表しているのです。

美味しく飲むために選ばれた色

日本酒の瓶に多い茶色や緑色は、日本酒を美味しく飲むための理にかなった色でした。
そして、詰められた日本酒の味わいを表現するために茶色や緑色ではない色の瓶を使う際も、美味しい状態で日本酒を飲んでもらうべく、酒蔵では選定に心を砕いていました。

どんな色をした瓶であっても、その背景には酒蔵の「日本酒を美味しく飲んでほしい」という思いがあります。瓶も日本酒の美味しさを支えていると心に留めながら、ぜひ日本酒を手に取ってみてください。