当たり年も外れ年もない! 毎年同じ味の日本酒を造れる理由とは
ワインの味わいは原料であるぶどうの品質に影響を受けるため、年によって変わるのが一般的。それに対し日本酒は、毎年同じ味をしているものもあるようです。日本酒も米を原料としており、年によって米の品質は異なるはずなのに、どうしてそのようなことが可能なのでしょうか。実際に酒蔵に聞いてみました。
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酒造りで、直接日本酒の一部となる原料水のことを「仕込み水」と呼びます。仕込み水は、日本酒の味わいを大きく左右します。本記事では、仕込み水についての知識、水の違いによって日本酒の味わいにどんな影響をもたらすのかを解説。また、原料のすべてにおいて妥協を許さない朝日酒造の「水」への思いも紹介します。
目次
仕込み水とは日本酒の一部となる仕込み用の水のことです。仕込み水のことや、仕込み水によって日本酒の味にどのような影響があるのか解説します。
日本酒造りに使用する水を「酒造用水」と言います。酒造用水は日本酒の成分にかかわる「醸造用水」と、瓶詰めなどに使用する「瓶詰用水」に分類されます。
今回解説する「仕込み水」は醸造用水で、蒸米や麹、酒母とともに日本酒の一部となる水のことです。醸造用水には他にも、洗米する時に使う「洗米用水」や洗米後の白米を浸ける「浸漬用水」などがあります。
一方、瓶詰用水には瓶詰前の瓶を洗う「洗瓶用水」や、出来上がった原酒のアルコール分を調整するために加水する「割水用水」などがあります。
日本酒の約80%は水です。つまり良質な日本酒を造るには、良質な水が必要です。カリウムやリン、マグネシウムなどの酒造りに有効な成分を含んだ清らかな水が、発酵の必要要件。
反対に鉄分など日本酒造りにとっては好ましくない成分が多く含まれる水を使うと、せっかくの米の香りや風味が失われかねません。そのため、酒造用水には成分の基準が厳しく定められています。
硬水と軟水、どちらの水も酒造りで使用されています。水の成分の違いによる、日本酒の味わいの違いを解説します。
水は、成分の違いにより「硬水」と「軟水」に分類されます。その基準は硬度で、水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量を表す値です。硬度にはアメリカ硬度とドイツ硬度があり、現在ではアメリカ硬度が広く使われています。
WHO(世界保健機関)では、0~60mg/L 未満を「軟水」、60~120mg/L未満を「中軟水」、120~180mg/L未満を「硬水」、180mg/L以上を「高度な硬水」と定めています。
「硬水」か「軟水」かの違いにより、日本酒の味わいが変わると思われていますが、酒造りにおいては、硬度ではなく、発酵に適したミネラル成分のバランスが重要となってきます。
ミネラルの成分が多いと発酵が促進され、力強い味わいの日本酒に仕上がります。反対にこれらの成分が少ないと、発酵は穏やかで、やわらかい味わいに仕上がります。
酒蔵では、その地ならではの水を使って酒造りをおこなっています。ここでは、日本屈指の酒処である灘、伏見、広島、そして新潟の仕込み水の特徴を紹介します。
灘の酒造りを昔から支えてきた仕込み水が、六甲山系を水源とする名水「宮水」です。本来「西宮の水」という意味で、それが略されて「宮水」と呼ばれています。鉄分が少なく、豊かなミネラル成分を含んでいる硬水で、そのミネラル成分によって発酵が活発になるため、輪郭がくっきりした辛口の日本酒に仕上がります。このような特徴から灘の日本酒は通称「男酒」とも呼ばれているのです。
伏見は灘とよく対比されていますが、伏見で酒造りに使われる水は「御香水」と呼ばれており、灘の宮水よりもやわらかい中硬水です。ミネラル成分が比較的少ないために発酵がゆっくり進み、なめらかできめ細かな味わいを生み出します。このような性質を持つことから、伏見の日本酒は通称「女酒」とも呼ばれているのです。
現代は、水質に関係なく、醸造技術で「男酒」「女酒」を造ることが可能になりました。
伏見よりさらに硬度の低い軟水で有名なのが広島です。かつては、硬度があまりに低い水は酒造りには不向きとされていました。しかし明治時代、広島の酒造家であった三浦仙三郎が水質により日本酒の味わいが異なることを発見し、「軟水醸造法」という新たな醸造技術を生み出しました。
軟水でも質の良い日本酒を造ることができるようになり、広島は灘・伏見と並ぶ酒処に成長しました。
新潟は、雪解け水が湧き水として流れ出た、ミネラル分の少ない軟水がほとんど。新潟の日本酒が淡麗辛口と言われているのは、この水のおかげです。
新潟は冬の降雪量が多く、山岳地帯などでは夏の盛りでも残雪があります。その雪が次第に溶けだし、県内のいくつもの川へと流れていき、豊かな資源となり、酒造りで使用されているのです。
朝日酒造は理想の酒造りを実現するために、いっさいの妥協を許しません。それは日本酒の原料である「水」も同じです。
朝日酒造は、創業地内を流れる清澄な地下水脈を仕込み水として使用しています。
地下水脈は地層を通り抜けてこんこんと湧き出ており、創業以来一度も涸れたことがありません。平均して硬度が30mg/L以下で、県内でもとりわけ硬度が低く、酒造りに適した軟水は、醸造の際に穏やかな発酵を促します。朝日酒造が造る酒の清らかで凛とした味わいの源泉となっています。
朝日酒造は創業以来、豊かな自然環境の中で恵まれた原料、地域の人々の支えのもとに酒造りを営んでいます。そのかけがえのない自然を守るため、地域の人達と一緒に、自然環境の指標昆虫であるホタルの保護活動を行っています。
さらに活動範囲を新潟県全体まで広げ、県内の里山や水辺などの身近な自然の環境の保全と研究活動に対する助成や、環境保全に関わる活動を目的とする「公益財団法人 こしじ水と緑の会」を設立。
朝日酒造の社員が率先して活動を積極的に支援し、新潟県内の自然環境保全に寄与しています。
朝日酒造のかつての杜氏はこう言いました。「酒の品質は、原料の品質を越えられない」。だからこそ酒造りの根幹をなす水についての想いも並々ならぬものがあります。それは各酒蔵にも同じことが言えるでしょう。これからは、酒の味わいを左右する「仕込み水」にも注目して日本酒を楽しんでみてはいかがでしょうか。
引用・参考文献
J.S.A. SAKE DIPLOMA、一般社団法人日本ソムリエ協会
石川雄章、なぜ灘の酒は「男酒」、伏見の酒は「女酒」といわれるのか、じっぴコンパクト新書
増補改訂 清酒製造技術、財団法人日本醸造協会