酒造りは、米づくりから。「農醸一貫」を目指した実験田での挑戦
朝日酒造は「酒造りは、米づくりから」との想いから、農地所有適格法人「有限会社あさひ農研」を1990年に設立。農業と醸造は、一体、かつ、一貫であるという「農醸一貫」を実現するため、酒造りに最適な米を育てています。今年は、設立から30年目。そんな節目の年の豊作を祈願して、米づくりの様子をレポート!今回は、田植え後の苗の生長と実験田での調査の様子をご紹介します。
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朝日酒造は「酒造りは、米づくりから」との想いから、農地所有適格法人「有限会社あさひ農研」を1990年に設立。農業と醸造は、一体、かつ、一貫であるという「農醸一貫」を実現するため、酒造りに最適な米を育てています。今年は、設立から30年目。そんな節目の年の米づくりの成功を祈願して、米づくりの様子をレポートします!
目次
酒造りにおいて、水とともに欠かせないのが「米」。朝日酒造のかつての杜氏が「酒の品質は、原料の品質を越えられない」という言葉を残したほど、米の品質は重要です。酒蔵を構える新潟県長岡市越路地域では古くから、その風土を活かした米づくりが行われ、新潟県内でも指折りの米どころとなっています。
朝日酒造は、地域の農業を守り、よりよい酒米を生産する目的で、農地所有適格法人「有限会社あさひ農研」を1990年に設立。厳格な品質管理のもと、酒造りに最適な米を育てています。理想とするのは「二白一粒(にはくいちりゅう)」。たんぱく質が低く、心白が中心にあり、大きく粒ぞろいな米です。
1996年には30年ぶりに復活させた千秋楽の栽培研究に着手し、地元JAなどとその栽培技術の確立に取り組んできました。こうした中から、「越州」(千秋楽)や「洗心」(たかね錦)など、米づくりから始まる価値の高い製品が生み出されています。
さらに、優良な酒米を栽培・育成するための実験田としての役割も果たしています。近年は、栽培、醸造の両面の知見を朝日酒造契約栽培米生産者へ発信するための準備を進めています。
例年と変わらず4月の初め、4月3日から米づくりが始まりました。あさひ農研は54haもの作付面積を誇り、「五百万石」「たかね錦」「ゆきの精」「越淡麗」「千秋楽」という5種類の米を栽培しています。これらの米も原料となり、「久保田」や「朝日山」、「越州」といった朝日酒造の日本酒が誕生しています。
まずは4月下旬に行う田植えに向けて、苗や田んぼを準備します。「播種(はしゅ)」「育苗(いくびょう)」「耕起(こうき)」「代かき(しろかき)」と呼んでいる重要な作業を行います。
4月3日、晴天のもと、酒米・五百万石の「播種(はしゅ)」を行いました。播種とは種まきのことで、田植えから逆算して約1ヶ月前に行います。
育苗箱(いくびょうばこ)という箱の中で育てています。箱の中に培養土を入れ、種をまき、水をたっぷりと注ぎます。
種まき後はすぐにビニールハウスに移動させ、約3週間かけて苗を育てていきます。これが「育苗(いくびょう)」です。
ビニールハウスで育てる理由は保温です。初めは、発芽を促すために30℃の温かい環境でぬくぬくと育てていきます。そして徐々に室温を低くしていき、田植え前5日頃からゆっくりと外気に慣らしていくことで、田んぼに出る準備をさせています。
「健苗育成」に向けた、昼夜の室温管理と必要に応じた水分供給により、まずは根が伸び、続いて葉っぱが土から顔を出します。3週間後には12cmほどまで生長。老化や軟弱していない健康な苗たちで、ハウス一面が緑の絨毯のように埋め尽くされました。
今年は気温が低いため、初期の苗の生育にやや遅れが生じましたが、天候と相談しながら室温調整を続けてきました。環境と生育状況を観察しながらの作業は、まさに酒造りと一緒です。
続いては、米づくりの土台となる「土づくり」です。「耕起(こうき)」とは、固くなった土をトラクターで掘り返すことです。新鮮な酸素をたっぷりと混ぜることで、微生物の働きを促進しています。掘り返す深さが重要で、早期に深くまで根をはらすために15cmほど掘り返しています。
しっかりと掘り返した後は、田んぼの近くを流れる「渋海川」から引っ張ってきている川の水を入れ、田植えができるように、土の塊をほぐし、平らに整地していきます。これが「代かき(しろかき)」です。蔵の周辺が、大きな湖のような美しい風景になりました。
苗の準備や田んぼの代かきも終え、あとは田植えにベストな天候となるのを祈るのみです。その週末はあいにくの雨でしたが、週明けの4月27日は晴天に。気温も15℃を超えた好条件の中、昨年より2~3日遅れはしましたが、田植えがスタートしました。
今年も、朝日酒造製造部の特命により若手社員が「米づくり」に挑戦していました。
自動車よりも一回り大きい田植機に苗をセットし、肥料を入れたら、準備完了。いよいよ田んぼに入り、苗を植えていきます。
苗は等間隔に、規則正しく植え付けていきます。
田んぼに水がありすぎると苗が埋まらず浮いてしまうので、田植え前には水を抜いています。水は抜きすぎも良くなく、いわゆる、ひたひた程度。代かき後の土壌状態を勘案して、田植えを行う田んぼの順番を決めています。
実際に苗を植えるときは、その土壌状態を加味しながら、植える速度を微調整しています。柔らかいところは土が上がらないように、ゆっくりと苗を植えていきます。
一見、機械で淡々と植えているように見えますが、土の状態や植えた苗の状態を観察しながら作業しているのです。環境と生育状況を観察しながらの作業は、まさに酒造りと一緒です。
無事に田植えを終え、キラキラ輝く田んぼに一生懸命立つ、小さな苗たち。この苗たちがどのように生長し、実りの秋を迎えるのか。我が子の成長を想う親心のような心情になりました。
次回の7月の記事では、その生長した様子や、良質な酒米を得るための研究の様子をお届けします。