酒造りは、米づくりから。「農醸一貫」を目指した実験田での挑戦
2020.07.10

特集

酒造りは、米づくりから。「農醸一貫」を目指した実験田での挑戦

朝日酒造は「酒造りは、米づくりから」との想いから、農地所有適格法人「有限会社あさひ農研」を1990年に設立。農業と醸造は、一体、かつ、一貫であるという「農醸一貫」を実現するため、酒造りに最適な米を育てています。今年は、設立から30年目。そんな節目の年の豊作を祈願して、米づくりの様子をレポート!今回は、田植え後の苗の生長と実験田での調査の様子をご紹介します。

目次

  1. 酒造りは、米づくりから
  2. 苗の生長日記
    1. ①田植え2週間後
    2. ②田植え1ヶ月後
    3. ③6月上旬
    4. ④6月下旬
  3. 実際の田んぼを使った栽培試験
  4. 酒造りに最適な米づくりへの挑戦

酒造りは、米づくりから

有限会社あさひ農研

酒造りにおいて、水とともに欠かせないのが「米」。朝日酒造のかつての杜氏が「酒の品質は、原料の品質を越えられない」という言葉を残したほど、米の品質は重要です。酒蔵を構える新潟県長岡市越路地域では古くから、その風土を活かした米づくりが行われ、新潟県内でも指折りの米どころとなっています。

朝日酒造は、地域の農業を守り、よりよい酒米を生産する目的で、農地所有適格法人「有限会社あさひ農研」を1990年に設立。厳格な品質管理のもと、酒造りに最適な米を育てています。

「五百万石」「たかね錦」「ゆきの精」「越淡麗」「千秋楽」という5種類の米を栽培し、54haもの作付面積を誇っています。これらの米も原料となり、「久保田」や「朝日山」、「越州」といった朝日酒造の日本酒が誕生しています。

苗の生長日記

田植え

今年の米づくりは、例年と変わらず4月初旬から始まりました。
4月3日に酒米・五百万石の「播種(はしゅ)」と呼ばれる種まきを行った後、室温管理されたビニールハウスで約3週間かけて苗を育てました。苗は12cmほどまで生長したところで、4月27日に田んぼデビューを迎えました。

晴天で気温も15℃という好条件の中、田植えがスタート。土壌状態を加味しながら、等間隔に規則正しく苗を植え付けていきました。環境と生育状況を観察しながらの作業は、まさに酒造りと一緒です。

苗

土壌に一生懸命立っていた、田んぼデビュー直後の小さな苗たち。その生長を見ていきましょう。

①田植え2週間後

苗の成長①

苗の根元から新しい葉と根が出ていました。新しい根が出ることを「活着」と呼び、昼間の気温が高いほど発根が良いとされています。
これから、苗の生長に応じた水量や肥料の調節などが必要になってきます。水がなくなると苗はしおれてしまい、水が深すぎると呼吸ができなくなるので、生長具合に合わせて水量を調節していきます。例年合わせの管理ではなく、その年の苗の状態や外部環境への臨機応変な調節が求められるのです。

②田植え1ヶ月後

苗の成長②

真っ青な空の下にキラキラ輝く田んぼ。初夏の新潟ならではの美しい風景が現れました。苗の草丈は約30cmに、茎は5本程に、葉の枚数も5枚程になり、すくすくと生長していました。
害虫や雑草の被害から苗を守るため、畦(あぜ)の草刈をする時期に入ります。

③6月上旬

中干し

田んぼの水をすべて抜き、田んぼを乾かす「中干し」を6月9日に行いました。苗の生長のためには欠かせない工程です。
中干しすることで、空気中の酸素が土の中に送られて根が強くなり、生長を促進します。その後は、6/21に再び水を入れました。この後は、気候などに合わせて水を抜いたり入れたりと、水量調節します。

④6月下旬

苗の成長③

草丈は約60cmと、1ヶ月前の2倍近くまで伸び、茎は25本程と5倍近くまで増え、葉は9枚程に。田んぼの地が見えないほどにまで立派に生長していました。
このころから、稲は茎の中で籾の集合体である穂を作り始めます。この時期を「幼穂形成期」と呼び、茎をカッターなどで割ってみると、穂の赤ちゃんともよばれる「幼穂」を見ることができます。一般的にこの幼穂をみて、肥料を撒くタイミングを決定するので、非常に大事な時期となります。

幼穂(出穂の約12日前)

幼穂(出穂の約12日前)

実際の田んぼを使った栽培試験

実験田

稲が生長する条件には「天候・気温・水・肥料」が関係します。天候・気温は調節できませんが、水・肥料は調節できます。毎年変化する天候に合わせて、稲の生長を水と肥料でコントロールしています。
朝日酒造では、あさひ農研の実際の田んぼを使用した栽培実験をおこなっています。田んぼ毎に条件を変え、酒米を栽培し、それぞれの酒米としての適性を調べることで朝日酒造の求める酒米の育成方法を模索しています。

定点観測

実験田では、朝日酒造の品質保証部の担当者が、毎週稲の生育調査を実施しています。実験田それぞれに10株の計測苗があり、機械は使わず、人の手と目で1株1株観察しています。定規で草丈の長さを測り、茎の本数と葉の枚数を数えています。
葉緑素計という機械で葉の色を計測することで、養分が足りているかどうかも観察しています。

指導中

生育調査のデータは地元農協と長岡市の農業普及指導センターに毎回送り、アドバイスをもらっています。さらに現地にも何度か来てもらい、追肥するタイミングなどを指導してもらっています。
実験田で得られたデータや知見は社内のみで活用するだけでなく、地域の契約栽培農家へも発信し協力して米づくりに励んでいます。

酒造りに最適な米づくりへの挑戦

このように朝日酒造とあさひ農研では「酒造りは、米づくりから」との想いのもと、理想の酒質に合った米育成のための実験を重ね、最善の育成方法を生産者にフィードバックできるよう日々挑戦しています。
次回の記事では、稲の開花・出穂、そして実りの時期を迎えた稲刈りの様子をお届けします。