蒸留酒とは?種類や製造方法、人気沸騰中のウイスキーやジンについて解説!
2024.06.26

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蒸留酒とは?種類や製造方法、人気沸騰中のウイスキーやジンについて解説!

最近、ウイスキーやクラフトジンの人気が高まり需要も増えています。日本国内でも、焼酎メーカーがウイスキーに着手したりジンを造るコンパクトなマイクロ蒸留所が新設されたりと活発な動きがあります。飲む機会の増えたウイスキーなどの蒸留酒ですが、実際に蒸留酒の製造方法はあまり知られていないのではないでしょうか。注目度の高いウイスキーとジンに焦点を当てて解説していきます。

目次

  1. そもそも蒸留酒とは?
    1. 醸造酒
    2. 蒸留酒
  2. 世界中で愛されているウイスキー
  3. ウイスキーの製造方法
  4. 蒸留方法の違い
    1. 単式蒸留機(ポット・スティル)の仕組み
    2. 連続式蒸留機(パテント・スティル)の仕組み
  5. ボタニカルが織りなす多様性のあるジン
    1. ジンの蒸留方法
  6. 蒸留の製法を知ればもっと蒸留酒が飲みたくなる!

そもそも蒸留酒とは?

世界にはビールやワイン、ウイスキーなど様々なアルコール飲料が存在します。これらを製造方法によって大きく分類すると「醸造酒」と「蒸留酒」に分けられます。それらはどう違うのか、どんな種類があるのか詳しく解説します。

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醸造酒

原料に含まれる糖をアルコール発酵させたものが醸造酒。発酵で得られるアルコール度数にはある程度の限界があり、お酒の種類によって発酵のプロセスが異なります。ワイン、ビール、日本酒を例にとってみましょう。

ワインはブドウを原料にしており、ブドウには糖が多く含まれています。そこに直接酵母を加えることでアルコール発酵するため、単発酵と呼びます。アルコール度数は12~14%ほど。

ビールは、大麦を原材料としている場合がほとんど。糖を多量に含んでいないため、原料のでんぷんを糖に分解させてから発酵させなければなりません。そこで大麦を発芽させて麦芽にしますが、その過程で生まれる酵素によってでんぷんを糖に分解させ、水とホップを加えてから酵母を加えます。糖化と発酵を別々に行うことから単行複発酵と呼び、アルコール度数は5~10%程度。

日本酒は、原料の米に含まれるでんぷんを麹の働きで糖に分解させ、酵母を加えて発酵させますが、ビールとの違いは同じタンクで糖化と発酵を同時に行っているため、世界でも珍しい並行複発酵と呼ばれ、発酵経路が非常に複雑になります。アルコール度数は18~20%。

蒸留酒

さまざまな成分が混ざった液体を熱して、沸点の違いを利用して成分を分離することを蒸留といいます。気体化させたアルコールの蒸気を冷却し、再び液体に戻すこと。つまり蒸留酒とは醸造酒を蒸留したアルコール飲料の総称のことなのです。蒸留を繰り返すことでアルコール度数は96%まで上げられるため、蒸留酒はアルコール度数の高いものがほとんど。日本特有の焼酎、主にブドウを原料にしたブランデー、カリブ海発祥でサトウキビを原料とするラム、多肉植物のアガベを原材料にしているメキシコを代表するテキーラなど種類が豊富です。

世界中で愛されているウイスキー

日本では2000年頃にハイボールブームが再来、現在もその流行が続いてるほど幅広い世代で親しまれているウイスキー。スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本はウイスキーの産地として知られ、世界五大ウイスキーと呼ばれています。製造方法は各国で規定があり、定められた条件を満たしたものだけがそれぞれの呼称を名乗ることが出来るのです。

スコッチウイスキーは、大麦麦芽を原材料とし単式蒸留機で2回蒸留したモルトウイスキーと、小麦やとうもろこしを原料として連続式蒸留機で蒸留したグレーンウイスキーがあります。また、単一の蒸留所で造られた原酒をシングルモルト、複数の蒸留所、モルト原酒とグレーン原酒を数種類合わせたブレンデッドと分けられています。
アイリッシュウイスキーは、基本的に単式蒸留機で3回蒸留し、ピート(泥炭)を使用しないことになっているため穏やかで飲みやすいのが特徴。
アメリカンウイスキーはとうもろこしやライ麦などを使用し、バラエティー豊かで、バーボンウイスキーが代表格。熟成にはオークの新樽を使用し、アルコール度数が40%以上であることと決められています。
カナディアンウイスキーはとうもろこしを主体としたベースウイスキーと、大麦やライ麦などの麦類を原料としたフレーバリングウイスキーがあり、これらをブレンドしたウイスキーがほとんどです。くせが少なくライトなタイプが多いので、カクテルに使用されることもあるウイスキー。
ジャパニーズウイスキーは、他国に比べると歴史は浅いかもしれませんが世界でも高い評価を得ています。基本的にはスコッチウイスキーの流れをくんでいるものの、熟成にミズナラ樽を使うなど日本人の味覚に合わせた繊細で軽やかな風味のウイスキーが多い傾向。過去にはスモーキーフレーバーが少ないとされていましたが、現在は比較的多めにピートを使用している銘柄もあり、独自の発展を遂げています。発酵、蒸留、ブレンドや瓶詰めと製造工程全てを自社で完結させるのも日本の特徴のため、各メーカーの個性的なウイスキーも近年は増えてきました。

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ウイスキーの製造方法

ウイスキーは国によっても原料によっても種類が異なりますが、基本的な製造の流れは共通しています。麦を原材料としているモルトウイスキーを例に説明しましょう。

製麦:モルトウイスキーの場合、原料が大麦です。しかし、大麦にはアルコール発酵に必要な糖が含まれていないため、発芽させて糖化酵素を活性化させます。大麦を水に浸して発芽させ、乾燥をして麦芽(モルト)にする作業が必要。乾燥作業の際、ピート(泥炭)を焚くことで独特の香りが付きます。

仕込み糖化):麦芽を細かく粉砕し、仕込み湯と一緒に糖化槽に入れます。麦芽に含まれる酵素がでんぷんを糖化したら濾過をし、麦汁を抽出します。

発酵:麦汁を発酵槽へ移し、酵母を加えます。酵母が麦汁の糖分を分解し、アルコールと炭酸ガスに変えていくことでもろみ(ウォッシュ)を造っていきます。発酵は約2~4日でアルコール度数は7~10%。

蒸留:発酵させたもろみを蒸留機に入れて蒸留します。初留と再留の2回の蒸留を経てアルコール度数が約70%になった原酒をニューポッドと呼んでいます。

熟成:蒸留したニューポッドを木製の樽で寝かせます。スコッチウイスキーは最低3年熟成させないといけません。10年以下のウイスキーも多くありますが、ヴィンテージ物であれば10~30年と長い期間熟成させ、それにより琥珀色の風味豊かなウイスキーに変化します。使用する樽の種類、大きさ、貯蔵庫の場所、気温といった多くの要素によって香りや味に個性が生まれていくのです。

ブレンドヴァッティング):ブレンデッドウイスキーの場合は複数の異なる原酒をブレンドしてより完成度の高い味に仕上げます。シングルモルトの場合も、商品の品質を一定にするために熟成年数の異なる同じ原酒をブレンド(ヴァッティング)して味を調えることがほとんどです。

瓶詰め:ブレンドを終えたウイスキーは冷却、濾過の工程で不純物を取り除き、加水をしてアルコール度数を調整して瓶詰めされ、出荷となります。

蒸留方法の違い

蒸留酒は保存性を高めるためにアルコール度数を上げる工程が欠かせません。蒸留方法は大きく「単式蒸留」と「連続式蒸留」の2つに分かれており、味わいが大きく変わってきます。

単式蒸留機(ポット・スティル)の仕組み

蒸留機の中にもろみを入れて加熱し、蒸気を冷却し液体に戻します。単式蒸留機は、1回の蒸留で生成できるアルコール度数は原液の約3倍。ウイスキーのもろみは約7%なので、スコッチでは2回蒸留するのが基本です。蒸留を繰り返すことでアルコール度数は上がりますが、度数の低いほうが原料の風味は残ります。また、ポット・スティルの形状によっても風味が変わります。ボット・スティルは、ボイラー、ヘッド、スワンネック、ラインアームといったパーツがあり、各パーツの大きさや形状で酒質に違いが出てきます。

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形状は何種類かありますが主に、ストレート・タイプランタン・タイプバルジ・タイプとあります。まず、ポット・スティルは銅製が一般的。これは、アルコールの蒸気中の成分が銅に触れた時、相互作用でエステルが生まれるのと、硫黄化合物を吸収する働きがあるからです。そのため、触れる面積が重要。ボディーとネックが一直線になっているストレートタイプは外気に触れる面積が少なく蒸気が対流する場所が小さいので、アルコール以外の成分が比較的残りやすい。一方、付け根にくぼみのあるランタンタイプ、膨らみのあるバルジタイプは蒸気の流れが複雑で対流が発生し、アルコール成分が凝縮し軽くクリアな蒸留液となります。

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蒸気が伝うラインアーム(ポット・スティルと冷却器をつなぐパーツ)の角度や長さも重要です。低沸点で揮発しやすい成分は、エタノールなどのアルコール類、フェネチルアルコールや酢酸エステル、ラウリン酸エチルといった軽量のエステル類。温度が上昇してからでないと揮発しない高沸点化合物はオレイン酸エチルやフルフラールといった重量のある成分。そのため、ラインアームが上向きの場合、ネックとラインアームの中で徐々に液化され重量のある成分は釜に戻っていき、より軽量の成分がコンデンサー(冷却器)まで行き着いて冷却され、フルーティーでエレガントなイメージのある香りが多く残っていきます。ラインアームが下向きの場合は液化された成分がそのまま冷却されるため、重厚感があり濃醇なイメージを持つ香りとなっていきます。

連続式蒸留機(パテント・スティル)の仕組み

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連続式蒸留機は、単純にいうと単式蒸留機が複数個搭載されていることになります。一度アルコール発酵させた液を投入すれば90%以上のアルコール度数で蒸留され、連続投入も可能、大量生産もすることができます。これだけアルコール度数が高いものは原材料の風味は残らないため、クセのないすっきりとした蒸留液になります。連続式蒸留機が実用化された当初は、大まかな蒸留をする粗留塔と味を調整する精留塔の2塔式でしたが、現在は何塔も繋がっている複雑なものに進化したことで、よりニュートラルでクリアな蒸留液にすることが可能となっています。

ボタニカルが織りなす多様性のあるジン

カクテルでの使用頻度が高いジン。クラフトジンの登場でロックやストレートで飲む人も増え、近年特に注目度の高い蒸留酒です。ジンは、オランダの医学博士が薬草として知られていたジュニパーベリーをアルコールに浸して蒸留してできた薬用酒が始まり。EUのジンの規定では、ジュニパーベリーの香りがあり、瓶詰め時のアルコール度数が37.5%以上であり、カテゴリー(ジン、蒸留ジン、ロンドンジン)に分ける、ということのみ。大まかに言ってしまうとアルコール度数の高いベーススピリッツにジュニパーベリーで風味付けされればジンといえます。
その中で人気のあるクラフトジン。“クラフト” に明確な定義はなく、大手メーカーに比べ小規模の蒸留所のことを指しているため、製法の縛りが少ない分造り手が自由にボタニカルを加えることができます。
ボタニカルは “植物由来の” といった意味がありますが、ジンを語る上でのボタニカルは風味付けのための素材全般をいいます。ボタニカルの組みわせは蒸留所の個性、ジンの個性となるため、クラフトジンの面白さが広がり、人気が上がっているのでしょう。

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ジンの蒸留方法

ジンは他の蒸留酒と違い意図的に香り付けをすることが出来るので、連続式蒸留機と単式蒸留機の両方を使って製造します。まず、 ニュートラルスピリッツとも呼ばれるベーススピリッツを造りますが、原材料は糖蜜やライ麦、トウモロコシ、果物など様々。いずれもジンはボタニカルで特徴付けるため、ベースは香りのないピュアなスピリッツの必要があり、一般的には連続式蒸留機で96%前後の高アルコールまで蒸留します。この原酒に加水をして、ジュニパーベリーの他、レモンピールやコリアンダーシード、カルダモン、シナモンといったボタニカルと蒸留するのが次のステップで、スティーピング方式(浸漬法)とヴェイパーインフュージョン方式(バスケット法)の2種類の方法があります。

スティーピング方式は、ボタニカルをベーススピリッツに直接入れて数時間~24時間程度浸漬する方法。このまま単式蒸留することでしっかりとした香りが抽出されます。

ヴェイパーインフュージョン方式は、単式蒸留器の蒸気の通り道にボタニカルの入ったバスケットを設置し、蒸気によって香りを抽出する方法で、軽快な風味と雑味が少ないのが特徴。

また、単式の蒸留機は常圧蒸留減圧蒸留があります。特に日本の米焼酎や芋焼酎といった乙類焼酎は素材の特徴が残っている蒸留酒で、減圧蒸留で造っています。減圧蒸留は蒸留釜の気圧を下げて沸点を下げることで低い温度でも蒸留でき、繊細な風味が抽出可能。この技術を使って、熱に弱いボタニカルは減圧蒸留にするなど常圧と減圧を使い分ける日本のクラフトジンの造り手も多くいます。

蒸留の製法を知ればもっと蒸留酒が飲みたくなる!

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蒸留酒は種類も豊富で世界中で造られていますが、日本国産のウイスキーやクラフトジンも世界的に認められ、広く知られるようになりました。ウイスキーは熟成樽の種類によって香りの違いが大きく、熟成年数によって更に奥深い味わいとなります。クラフトジンはその地域のボタニカルを使用し、個性豊か。
特にジャパニーズクラフトジンは、柚子、和山椒、緑茶、桜、クロモジといった日本を感じられるボタニカルが配合されることがあります。ウイスキーの熟成年数にロマンを感じたり、クラフトジンのボタニカルに想いを馳せたり、蒸留酒にしかない楽しみ方を発見してみてください。ロック、水割り、カクテルと飲み方は無限大の蒸留酒の魅力にどっぷり浸かりましょう!

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まゆみ

まゆみ

酒匠、料理研究家。 1日も欠かすことなく酒を呑み続ける驚胃の持ち主。酒と蕎麦と音楽を愛する。著書「うち飲みレシピ」「スバラ式弁当」。